神経科学:神経変性疾患の患者が失った脳細胞を取り戻す方法
Nature
2020年6月25日
脳の非神経細胞を特定の機能を果たす神経細胞へと1ステップで変換させる方法が、単離ヒト細胞とマウスで実証されたことを報告する論文が、今週、Nature に掲載される。この方法は、パーキンソン病のマウスモデルの症状を回復させることが示され、神経変性疾患の治療法を探究する新たなアプローチになる可能性がある。
再生医療の大きな目標の1つは、神経変性疾患で失われた神経細胞を新しい神経細胞に置き換えて、それらが特定の機能を果たす神経回路に組み込まれるようにすることだ。例えば、神経変性疾患の1つであるパーキンソン病は、報酬と運動に関与する脳領域のドーパミン作動性神経細胞の脱落を特徴とする。
今回、Xiang-Dong Fuたちの研究チームは、アストロサイトを機能的なドーパミン作動性神経細胞に変換できることを実証した。アストロサイトは、脳の非神経細胞で、PTBP1と呼ばれるRNA結合タンパク質を産生する。このPTBP1は、アストロサイトが神経細胞になるのを阻害する。パーキンソン病のマウスモデルにおいてPTBP1を除去すると、アストロサイトが十分に機能的な神経細胞に変換されて、失われた神経回路を再構築し、ドーパミン濃度の回復と運動障害からの救済をもたらすことが分かった。また、PTBP1を、アンチセンスオリゴヌクレオチド(神経変性疾患の治療に極めて有望なことが最近実証されている治療薬のクラス)を使って一過的に抑制する方法も有効であるという重要な結果が得られた。
今回の研究は、神経変性疾患を治療するための新しい再生医療手法を提示しているが、Fuたちは、この手法をヒトに応用するためには、さらなる研究が必要であると注意喚起している。開発研究がさらに進めば、パーキンソン病だけでなく他の神経変性疾患にも応用できる可能性がある。
doi:10.1038/s41586-020-2388-4
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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