気候変動:ヨーロッパの沿岸地域保護対策の費用便益評価
Nature Communications
2020年5月6日
ヨーロッパの海岸線の約3分の1で海岸堤防のかさ上げが行われれば、ヨーロッパで予想されている海面上昇による高潮浸水被害額の少なくとも83%を回避できる可能性があることを示唆する論文が、Nature Communications に掲載される。
ヨーロッパでは、北東大西洋からバルト海、地中海を経て、黒海まで伸びる海岸線から50キロメートル以内に2億人以上の人々が居住している。ヨーロッパ沿岸の海面水位は21世紀末までに1メートルも上昇すると予想されているため、沿岸の地域社会の保護が深刻な課題になっている。
今回、Michalis Vousdoukasたちの研究チームは、ヨーロッパの沿岸地域を海面上昇から保護するための施設の増強について費用便益評価を行った。Vousdoukasたちは、モデル化フレームワークを用いて、高排出シナリオ(RCP 8.5)と中排出シナリオ(RCP 4.5)の下での海面上昇、波浪、高潮と潮汐の予測に基づいた現在と将来の極端海面水位(ESL)を推定した。これによって、浸水する土地の面積が決まり、高潮・浸水損害額への換算をしたうえで、海岸堤防のかさ上げの費用便益分析に利用された。
この分析の結果、ヨーロッパの沿岸地域を保護するための施設を増強した場合の費用対便益比には地域差があり、ヨーロッパの海岸線の68~76%で、費用が便益を上回ることが判明した。しかし、人口密度が1平方キロメートル当たり500人を超える地域では、便益が費用を上回る傾向が見られた。国別では、便益が費用を上回る海岸線の割合が最も大きかったのがベルギー(85~95%)で、次いでフランス(58~66%)、イタリア(53~59%)だった。
doi:10.1038/s41467-020-15665-3
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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