【免疫】寄生虫による免疫応答の活性化で関節炎の進行を抑える
Nature Communications
2016年6月8日
Immunology: Worm-activated immunity may suppress arthritis
寄生線虫に感染したことで起こる特定の免疫応答の活性化が関節リウマチの治療に役立つことがマウスの研究で明らかになった。この研究結果について報告する論文が、今週、掲載される。
関節リウマチは、関節の自己免疫疾患だ。この疾患の原因である免疫応答(Th1、Th17応答)は、細菌やウイルスと闘うために進化したものだが、関節炎の患者の場合には免疫応答によって軟骨が攻撃され、組織損傷、炎症、痛みが生じる。関節リウマチにおいて炎症を抑制する免疫機構については、ほとんど解明されていない。また、これまでのところ寄生虫感染と関節炎との関連性は実証されていない。
今回、Aline Bozecたちは、関節炎を誘導したマウスを用い、3~11匹ずつグループ分けして、いくつかの実験を行った。そして、一部のマウスに寄生虫(ブラジル鉤虫、Nippostrongylus brasiliensis)を感染させて、その免疫応答を調べた。寄生虫に感染したグループと対照グループの比較では、寄生虫感染に関節炎の防御効果が認められ、この防御効果にタイプ2(Th2)という特定の種類の免疫応答が関係しており、この免疫応答が寄生虫によって活性化されることが分かった。Th2応答は、マウスから寄生虫を排除し、それに加えて、組織の修復を促進し、炎症を阻害して、関節炎の原因となる免疫応答(Th1とTh17)を効率的に抑制する。さらに、今回の研究では、関節炎患者(20人)の膝関節組織の検体からTh2応答の細胞成分が見つかった。このことからは、寄生虫に感染しなくても、Th2免疫応答が関節炎の抑制にすでに関与していることを示唆されている。
以上の結果は、ワクチンに似た刺激を用いてTh2免疫応答を活性化することがヒトの関節炎の新たな治療法の開発へ道を開く可能性を示唆している。
doi:10.1038/ncomms11596
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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