齧歯類で見られた糖尿病の持続的寛解
Nature Medicine
2016年5月24日
血糖値の調節に関わる脳内回路を標的とすると考えられているホルモンの1つを1回注射するだけで、マウスとラットで糖尿病の持続的寛解が起こることが報告された。ただし単回投与で効果が見られるのは軽症型糖尿病の齧歯類だけで、その詳しい作用機序もまだ分かっていない。だが、使われたホルモンはヒトの脳にも天然に存在するものなので、この知見は臨床での糖尿病治療に応用できるかもしれない。
2型糖尿病の特徴は血糖値の病的な上昇である。以前に行われた研究で、さまざまな生物学的過程に関わっているホルモンの繊維芽細胞増殖因子1(FGF1)を末梢血液系中に注射すると、強い抗糖尿病作用が見られることがマウスで明らかになっている。しかし、こうした効果を得るには高用量投与と注射の反復が必要で、しかもこの方法では寛解が持続しなかった。
M Schwartzたちは今回、2型糖尿病のマウスやラットの脳にFGF1を単回注射するだけで、少なくともその後4か月間、血糖値が正常化することを見いだした。この抗糖尿病作用は食物摂取や体重の持続的変化とは無関係に生じたことから、血糖値の改善は体重減少によるものではないと考えられる。このホルモン投与は、マウスの食餌性肥満モデル、遺伝性肥満モデルのどちらにも、またラットの遺伝性2型糖尿病モデルにも効果があった。
これらの結果は、脳が血糖に関する全身的なシグナル伝達に強く影響することを示唆している。ただ、著者たちはFGF1注射は脳の構造変化につながる可能性があると述べており、この問題は今後の研究で明らかにしなくてはいけない。
doi:10.1038/nm.4101
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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