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理論物理学:二体問題を解く

Nature

2025年5月15日

Theoretical physics: Solving the two-body problem

Nature

相互作用するブラックホールから発生する重力波の高精度予測を報告する論文が、今週のNature にオープンアクセスで掲載される。この研究は、より正確な重力波モデルへの道を開き、重力波を検出する将来の努力の指針となるかもしれない。

アインシュタインの一般相対性理論は、ブラックホールや中性子星のような2つの巨大な天体が相互作用すると、重力波を放出すると予測している。これらの波は、時空のさざ波であり、検出器の長さ、そして空間そのものの、わずかな長さの変化を方向ごとに観測する特殊な観測装置で検出することができる。重力波検出器からの観測結果を解釈するには、信号がどのように見えるかについて、非常に正確なモデルが必要である。数値モデルは近似値を提供するが、このプロセスは時間がかかり(物体の軌跡の予測を何段階にもわたって精緻化するため、数週間かかることもある)、計算コストがかかる。

Jan Plefkaら(フンボルト大学ベルリン〔ドイツ〕)は、摂動論(perturbation theory)を使って異なるアプローチをとっている。摂動論は、問題の単純な近似を解くことから始め、より複雑な詳細を漸進的に解いていくものである。著者らは、2つの同じ物体間の相互作用が重力波の放出にどのような影響を与えるかという二体問題に取り組んでいる。具体的には、2つのブラックホールや中性子星がすれ違うときに何が起こるか、という問題である。その結果、この相互作用によって生成される重力波の高精度な解析解が得られた。重要な発見は、カラビ・ヤウ多様体(Calabi–Yau manifolds;ドーナツ型空間の6次元類似体)として知られる数学的構造が、より単純な近似ではなく、これらの解の中に現れるということだった。これらの数学的発明は、これまで測定可能な量に直接結びつけられることはなかった。この構造は、波の散乱時に放出されるエネルギーを説明するのに役立つ。

Zhengwen Liuは、同時掲載されるNews & Viewsの解説の中で、Plefkaらが発表したモデルは画期的な精度を持っていると述べている。「著者らの高精度の結果は、重力波のより正確なモデルの開発を促進するでしょう。これらは、ヨーロッパのアインシュタイン望遠鏡や宇宙に設置されたレーザー干渉計宇宙アンテナ(LISA:Laser Interferometer Space Antenna)のような、将来の重力波実験から得られる観測結果を解釈に不可欠となるはずです、」とLiuは記している。

Driesse, M., Jakobsen, G.U., Klemm, A. et al. Emergence of Calabi–Yau manifolds in high-precision black-hole scattering. Nature 641, 603–607 (2025). https://doi.org/10.1038/s41586-025-08984-2
 

doi: 10.1038/s41586-025-08984-2

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