生態学:鳥インフルエンザがサウスジョージア島の繁殖期のゾウアザラシ個体数を半減させる
Communications Biology
2025年11月14日
Ecology: Avian flu halves South Georgia’s breeding elephant seal population
サウスジョージア島(South Georgia)の雄のミナミゾウアザラシ(southern elephant seals、Mirounga leonina)の繁殖個体群は、高病原性鳥インフルエンザウイルス(HPAIV:highly pathogenic avian influenza virus)によって半減したかもしれないことを報告する論文が、オープンアクセスジャーナルCommunications Biology に掲載される。著者らは、この減少が生存する子アザラシの数を減らし、島の繁殖個体群の存続を脅かす可能性があると指摘している。
南大西洋に浮かぶサウスジョージア島は、世界最大のミナミゾウアザラシの生息地であり、1995年の最後の個体数調査では、世界の繁殖個体数の約54%を占めていた。高病原性鳥インフルエンザは、南米全域の海洋哺乳類や海鳥に大量死をもたらし、アルゼンチンのバルデス半島(Valdés Peninsula)では、ミナミゾウアザラシの雌の個体数が67%減少した。このウイルスは、2023年にサウスジョージア島にも蔓延した。
Connor Bamfordら(英国南極観測局〔英国〕)は、2022 年と 2024 年の繁殖期に、セント・アンドリューズ湾(St Andrews Bay)、ハウンド湾(Hound Bay)、およびゴールド港(Gold Harbour)の 3 つの海岸から収集した航空写真を用いて、サウスジョージア島の繁殖コロニーにおけるゾウアザラシの個体数を監視した。著者らは、1995年の個体数調査で島のゾウアザラシの個体数の15.6%を占めたこれらの個体群を、1958年から2022年にかけて実施された長期的な平均の個体数と比較した。また、著者らは、2024 年のサウスジョージア島の雌の予測数が、長期平均と比較して 33.7% 減少しており、2022 年から 2024 年にかけて、3 つの特定の海岸に生息する繁殖期の雌の数が 47% 減少していることを確認した。この減少を島全体の個体数に換算すると、2024年の繁殖期には約53,000頭の雌が不在だったと推定される。著者らは、この個体数減少の規模が2023年にバルデス半島で観察された鳥インフルエンザの発生規模に匹敵すると指摘している。
著者らは、高病原性鳥インフルエンザによる直接的な死亡に加え、感染した雌が身体的ストレスにより子どもを早期に放棄する現象が個体数減少を悪化させている可能性を推測している。こうした放棄行動が長期的に個体数規模に影響を与えると指摘し、サウスジョージア島のゾウアザラシ個体群に対する高病原性鳥インフルエンザの健康影響を評価するため、繁殖コロニーの持続的な監視を推奨している。
- Article
- Open access
- Published: 13 November 2025
Bamford, C.C.G., Fenney, N., Coleman, J. et al. Highly Pathogenic Avian Influenza Viruses (HPAIV) Associated with Major Southern Elephant Seal Decline at South Georgia. Commun Biol 8, 1493 (2025). https://doi.org/10.1038/s42003-025-09014-7
doi: 10.1038/s42003-025-09014-7
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