神経科学:運動を制御するもう1つの脳内ネットワークが存在するかもしれない
Nature
2023年4月20日
Neuroscience: A potential new brain network for controlling movement
ヒトの運動の制御に関わる脳領域は、2つの非常に異なるシステムによって構成されているという考えを示したEvan Gordonらの論文が、Natureに掲載される。つまり、1つのシステムが正確な動きの制御を下支えし、もう1つのシステムが全身の動きを協調させているというのだ。この考え方は、心理状態と身体状態の相互作用が頻繁に生じる仕組みと原因を説明するために役立つかもしれないとGordonらは述べている。
運動皮質は、身体の動きを指示する信号を生成する脳領域である。これまで長い間、運動皮質は、特定の身体部位の動きを開始させる役割を担うそれぞれ独自の領域を示した地図のような状態になっていると考えられてきた。そして、ワイルダー・ペンフィールドらの研究チームが運動皮質をマッピングして、頭から足の指までの全ての身体部位をそれぞれ対応する運動皮質の領域上に描いた。これが「(運動)ホムンクルス」というものだ。しかし、その後の研究で矛盾点が見つかり、「ホムンクルス」モデルが疑問視されるようになった。
今回、Gordonらは、ヒトの運動皮質の構造を調べるために、さまざまな年齢の人々の安静時と課題遂行時(まばたきをする、膝を曲げる、飲み込むなど)の機能的磁気共鳴画像データを使用した。その結果、古典的なホムンクルス構造には皮質の薄い領域が散在しており、これらの領域は、相互の機能的結合が強いだけでなく、行動制御や生理的制御、覚醒、エラー関連活動と痛みにとって重要なネットワークとの機能的結合も強いことが分かった。これらの皮質の薄い領域は、運動に特異的ではないことが判明し、運動の計画時(手足の協調)と体軸の運動(腹部や眉毛など)の際に同時に活性化していた。
Gordonらは、運動皮質が2つの行動制御システムが統合された状態によってできているという考え方を提案している。そのうち、よく知られた第1のシステムは、特殊化した付属肢(手の指、足指、舌など)の正確な独立運動、つまり発話や物体の操作に必要とされる器用な運動のためのエフェクター特異的回路によって構成されている。一方、第2の統合的出力システムであるsomato-cognitive action networkは、目標と生理を統合する点で重要性が高いことが判明した。
doi: 10.1038/s41586-023-05964-2
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