生態学:水銀に汚染された魚類個体群の回復を予測する
Nature
2021年12月16日
Ecology: Predicting the recovery of mercury-contaminated fish populations
湖沼生態系の水銀汚染を減らすと、わずか数年以内に魚類のメチル水銀汚染が減ることを報告した論文が、Nature に掲載される。今回の知見は、水銀排出量を抑制する取り組みにより、ヒトが魚類の消費を通じて水銀に曝露するリスクを低減できることを示唆している。
人間活動の結果として排出された水銀は、水界生態系に入り、そこでメチル水銀に変換される。メチル水銀は、魚類の体内に蓄積され、ヒトの健康を脅かす強力な神経毒だ。水銀排出量の抑制が、汚染物質であるメチル水銀を食物連鎖から除去する上でどの程度効果的かという点についての我々の理解は限られている。今回、Paul Blanchfieldたちは、魚類汚染の回復に対する水銀規制措置の影響を直接評価するために、15年間の全生態系実験を行った。
Blanchfieldたちは、この実験の最初の7年間に、カナダの人里離れたかく乱されていない湖とその流域に、(水銀の添加を直接監視するために)水銀同位体を供給したところ、メチル水銀として同位体標識された水銀が、この水界生態系内の魚類によって摂取された量が増加したことが記録された。メチル水銀の濃度は、無脊椎動物(プランクトンなど)と小型魚(イエローパーチなど)で45~57%上昇し、カワカマスやホワイトフィッシュなどの大型魚の個体群で40%以上上昇した。その後は水銀同位体の供給をやめて、食物連鎖への影響の観察が8年間続けられた。小型魚で標識メチル水銀の濃度が急速に低下し、試験期間の終わりまでに濃度は85%以上低下した。これが引き金となって、大型魚でも標識メチル水銀の濃度低下が起こり、カワカマスの個体群で76%、ホワイトフィッシュの個体群で38%低下した。
Blanchfieldたちは、この実験で観察されたメチル水銀汚染の急速な減少は、水銀の排出規制によってヒトが消費する魚類の安全性が高まる可能性をはっきり示していると結論付けている。
doi: 10.1038/s41586-021-04222-7
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