生態学:ハチの個体数減少に対する農薬の影響が過小評価されている可能性がある
Nature
2021年8月5日
Ecology: Possible underestimation of agrochemical impacts on bee declines
複数の農薬(殺虫剤、除草剤など)の相乗的相互作用は、相加的であれば、ハチの死亡率に予想以上に大きな影響を与えることをメタ分析によって明らかにした論文が、今週、Nature に掲載される。農業に関連する環境ストレス要因の相互作用による影響が過小評価されているとすれば、ハチが現行の規制制度では保護されない可能性が生じる。
ハチの個体数が減少することは、世界の食料安全保障と野生生態系にとっての脅威である。この個体数減少に対しては、数多くの要因(例えば、農薬、寄生虫、栄養的ストレス要因)が、それぞれ寄与していることが明らかになっているが、これらの要因の相互作用を調べるこれまでの研究は、結果がまちまちで、決め手に欠けていた。
今回、Harry Siviter、Emily Bailesたちは、こうした脅威の程度を定量的に評価するため、、農薬、寄生虫、栄養的ストレス要因の356種類の相互作用がハチの健康に及ぼす影響を比較した90件の研究結果をまとめて分析した。全般的に言うと、複数のストレス要因が相乗的にハチの死亡率に影響していることが明らかになり、相互作用するこれらのストレス要因の複合効果が、ストレス要因の個々の効果の合計より大きくなることが分かった。ただし、このメタ分析の結果をストレス要因の種類別に整理すると、農薬が散布された作物中の残留農薬濃度として報告されている濃度の農薬間の相乗的相互作用がハチの死亡率に影響していることを示唆する強力な証拠が得られた。他方、ハチと共進化してきたストレス要因(寄生虫感染および/または栄養不良)の場合には、その複合効果が、ストレス要因の個々の効果を合計した期待値を超えなかった。
Siviterたちは、以上の結果は、農薬のストレス要因が相加的に相互作用することを前提としていて、その結果として人為的発生源がハチの死亡率に及ぼす相乗的な相互作用の影響を過小評価しているかもしれない環境リスク評価計画における警告を浮き彫りにしている可能性があると結論付けている。Siviterたちは、もしこの問題に取り組まなければ、ハチの個体数がさらに減少するリスクが生じ、世界の食料生産にとってかけがえのない財産である花粉媒介にも連鎖反応的な影響が及ぶと述べている。
doi: 10.1038/s41586-021-03787-7
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