惑星科学:火星における雷の証拠
Nature
2025年11月27日
Planetary science: Evidence of lightning on Mars
NASAの火星探査車パーサビアランス(Perseverance rover)が捉えた音と電気信号から、火星における雷の証拠を報告する論文が、Nature に掲載される。この観測結果は、火星の大気が電気的に活発であることを示しており、同惑星の大気化学に関する理解を深めるとともに、将来の探査に影響を与えるかもしれない。
私たちの太陽系では、雷や電気活動は地球、土星、および木星で発生している。火星における電気活動の存在は理論的には提唱されていたが、直接的な実証はこれまでなかった。火星の塵に覆われた地表では、風で巻き上げられる塵や砂、塵嵐、およびダストデビル(つむじ風)など、地球上で帯電を引き起こすことが知られているさまざまな局所的および全球的な現象が頻繁に発生している。このような帯電が火星でも起こるかどうかを理解することは、火星の地表化学に関する知見を深め、ロボット探査や有人ミッションの安全性に影響を与える可能性があるため、きわめて重要である。
この疑問に答えるため、Baptiste Chideら(宇宙物理・惑星学研究所〔フランス〕)は、パーサビアランスが火星の2年間に記録した28時間のマイク音声を分析した。雷に特徴的な干渉や音響的特徴を特定することで、55件の電気現象を分類した。そのうち54件が、研究期間中に記録された最強風速イベントの上位30%以内に発生していた。これは火星において風が電荷発生の重要な役割を担うことを示唆している。さらに16件の現象は、探査車が砂塵竜巻に接近した唯一の2回に記録された。これは、マイクの到達範囲外でも、より遠隔地や低エネルギーの放電が発生した可能性を示唆している。
これらの観測は、火星の大気が特に局所的な塵の巻き上げ時に、全球的な塵の季節よりも電気的に活発であることを示唆している。著者らは、このような活動が酸化条件を強化し、有機物の保存や居住可能性に影響を与え、機器や宇宙飛行士にリスクをもたらす可能性があると指摘する。著者らは、火星における電気現象とその化学的影響を定量化するため、専用の観測機器と改良された大気モデルの必要性を訴えている。
- Article
- Published: 26 November 2025
Chide, B., Lorenz, R.D., Montmessin, F. et al. Detection of triboelectric discharges during dust events on Mars. Nature 647, 865–869 (2025). https://doi.org/10.1038/s41586-025-09736-y
News & Views: Is there lightning on Mars?
https://www.nature.com/articles/d41586-025-03590-8
Nature Podcast: This is what lightning on Mars sounds like
https://www.nature.com/articles/d41586-025-03896-7
doi: 10.1038/s41586-025-09736-y
注目の論文
-
11月27日
惑星科学:火星における雷の証拠Nature
-
11月25日
天文学:沸騰する海と地殻変動の圧力によって氷の衛星が再形成されるNature
-
11月13日
気候変動:ムンバイにおける異常降雨に関連した不均衡な死亡率Nature
-
11月7日
考古学:デジタル地図によりローマ帝国の道路網が10万キロメートル増えるScientific Data
-
11月5日
気候:極端な強風がタービンの限界を超えて動かす可能性があるNature Communications
-
11月4日
地球科学:南極氷河の急速な後退Nature Geoscience
