注目の論文

生態学:中国の外国開発金融による生物多様性と先住民の土地への潜在的リスク

Nature Ecology & Evolution

2021年9月21日

Ecology: Potential risks to biodiversity and Indigenous lands from China’s overseas development finance

中国の二大政策銀行が融資する外国の開発プロジェクトには、近隣で生物多様性や先住民の土地を脅かす可能性があるものが多いという世界規模の分析結果について示した論文が、Nature Ecology & Evolutionに掲載される。この分析は、Scientific Dataに同時に掲載されるデータに基づいている。今回の知見は、その種のプロジェクトで生じる潜在的な社会生態学的リスクが世界銀行の融資による同種のプロジェクトのリスクを上回ることを示唆しており、持続可能性の改善を目的とする今後の戦略に極めて重要と考えられる。

道路や鉄道、発電所などの開発プロジェクトは、大きな経済的利益を生むことができるが、社会生態学的な悪影響を呼んで環境破壊や社会的対立を生じることもある。過去40年で、中国は世界銀行をしのぐ世界最大級の開発資金提供者となった。しかし、中国の外国開発金融に伴う潜在的なリスクに関してはほとんど分かっていない。

今回、Kevin Gallagherたちは、中国国家開発銀行(CDB)と中国輸出入銀行(CHEXIM)という中国の二大政策銀行の融資を受ける外国の開発プロジェクトが生態学的に敏感な地域と先住民の土地に与え得るリスクを調べた。この調査では、リスクのある地域の内部および近隣の開発プロジェクトへの投資に着目して、これらの政策銀行2行が2008~2019年に行った93か国への国際融資859件[総額4620億ドル(約50兆8200億円)]の詳細を記録した大規模なデータベースが分析された。Gallagherたちは今回の分析で、これらの融資のうち594件を使用した。分析の結果、これら2行の融資を受けたプロジェクトの63%(372/594)は、潜在的な危機的生息地や保護区、先住民の土地と重なることが明らかになった。また、絶滅が危惧される世界の鳥類、哺乳類、爬虫類、両生類の最大24%が、そうしたプロジェクトの影響を受けると考えられた。世界的なリスクのホットスポットが存在するのは、主としてアフリカのサハラ以南地域の北部、東南アジア、南米の一部地域であった。平均すると、CDBとCHEXIMが融資を行う開発プロジェクトは、世界銀行の資金を受ける同種のプロジェクトと比較して、特にエネルギー部門で生物多様性へのリスクが大きいことが明らかになった。

Gallagherたちは、リスクの性質や有無を確認するとともに、潜在的なリスクを緩和する可能性のある保護戦略を実行するために、今回の結果を現場でのアセスメントによって補完することが重要になると指摘している。

doi: 10.1038/s41559-021-01541-w

「注目の論文」一覧へ戻る

プライバシーマーク制度