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気候変動:食料不足による絶食の期間がホッキョクグマの生き残りに影響を及ぼす

Nature Climate Change

2020年7月21日

Climate change: Fasting length impacts polar bear survival

北極圏に生息するホッキョクグマの亜集団の大部分は、2100年の時点で生き残りが危ぶまれる状態に陥る可能性のあることを明らかにした論文が、今週、Nature Climate Change に掲載される。これは、ホッキョクグマが、地球温暖化を原因とする海氷の減少によって陸上に追いやられ、陸上での食料不足のために体内に蓄積された脂肪を消費して生き延びなければならなくなることによる。今回の研究では、ホッキョクグマの幼体や成体の生存率が急速に低下し始めるまでの絶食期間の閾値が推定され、その結果、いくつかの亜集団が、そのような閾値にすでに到達していると考えられることが分かった。

ホッキョクグマは、海氷を利用して狩猟を行っており、海氷がなくなると、陸上に追いやられて食料不足に直面する。北極圏の海氷が温暖化に応じて減少すると、ホッキョクグマの絶食期間は、長期化せざるを得なくなる。ただし、ホッキョクグマの幼体や成体が、その生存率の低下が始まるまでに絶食できる期間の長さは分かっていない。

今回、Péter Molnárたちの研究チームは、動的エネルギー収支モデルを用いて、絶食しているホッキョクグマのエネルギー必要量とその生き残りに支障が生じ始めると考えられる閾値を決定した。Molnárたちは、この結果と将来的な無氷日の日数を予測した地球システムモデルを組み合わせて、ホッキョクグマの13の亜集団(ホッキョクグマ全体の80%に相当)が閾値を超える時期を推定した。

その結果、絶食期間が長くなると、最初に危険にさらされるのは幼体の生存であり、受ける影響が最も遅いのは単独生活をする雌の成体であることが分かった。また、Molnárたちは、いったんこうした閾値に達すると、幼体と成体の生存が絶えず危険にさらされるようになるという考えを示している。次にMolnárたちは、高排出(RCP 8.5)シナリオの下でホッキョクグマの生存をモデル化し、2100年の時点で、北極圏のかなりの部分でホッキョクグマが存続する可能性が低いことを明らかにした。これに対して、中排出(RCP 4.5)シナリオの下では、21世紀末まで生き残る可能性のある亜集団が多くなる。この結果は、ホッキョクグマの生存を確保するために気候変動の緩和が必要なことを明確に示している。

Molnárたちは、単一の地球システムモデルを使用していることやいくつかの亜集団のエネルギー収支データがないことなど、今回の研究の限界を指摘している。

doi: 10.1038/s41558-020-0818-9

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