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片頭痛:片頭痛における羞明の神経経路

Nature Reviews Neurology

2010年5月1日

MIGRAINE A neural pathway for photophobia in migraine

片頭痛に関連した多くの症状の神経メカニズムに関しては、まだ解明されていないのが現状である。新たに実施された研究からは、非画像形成性の網膜経路および硬膜からのシグナルが片頭痛患者の羞明に関与していることが示唆されている。悪心や臭気恐怖症のような片頭痛に関連した他の症状の背景にあるメカニズムを理解するためには、より多くの研究が必要とされる。片頭痛は伝統的に、神経科学的研究にとって非常に理解しづらい疾患であると見なされてきた。しかしながら、片頭痛に関する研究は過去25 年間にわたって神経学の多くの分野よりも早く発展し、重要な研究 結果や臨床上の進歩が得られている。国際的にも認められていることであるが、片頭痛に関しては、明確な診断基準や階層分類が開発され、広く利用されてきた。さらに、皮質の拡延性抑制が、片頭痛のアウラ(多くの患者において痛みに先行して発現する視覚的、感覚的およびその他の神経学的な症状)の神経的な想定メカニズムと考えられてきた。また、片頭痛の稀な病型である家族性片麻痺を説明する遺伝子や突然変異が特定され、片頭痛における三叉神経血管系や脳幹の役割に関しても解明されてきた。さらに他の研究によって、いくつかのシグナル伝達分子が片頭痛に関与していることが明らかにされ、中でも特に一酸化窒素およびカルシトニン遺伝子関連ペプチドは、現在市場に進出している新薬のメカニズムに基づいた開発につながった。

われわれが片頭痛の神経生物学メカニズムを理解する上でさらに重要な進歩が、今回Nature Neuroscience に掲載された。ハーバード大学のRami Bursteinがリーダーを務めるNoseda ら3 の研究グループは、片頭痛の重要な症状の一つである光線過敏症(羞明)に関して研究を行った。羞明は片頭痛の診断基準の重要な所見の一つであり、片頭痛患者の80%超に認められる。しかしながら、片頭痛における羞明の背景にあるメカニズムに関しては、この分野の多くの研究者たちによって長年解明されなかった。例えば、緊張型頭痛や群発性頭痛とは対照的に、なぜ片頭痛は羞明やそう呼ばれる他の関連症状とそんなにも強く関与しているのか?

この科学的問題に対するNoseda ら3 のアプローチ法は、ヒトを対象とした研究から動物実験に進むreverse translational research と呼べる研究の良い一例である。臨床症状に注目した結果、光知覚が欠如している患者では視神経が障害されているか、外科的に眼球が摘出されていることから、彼らは最初にこれらの患者を対象とした研究によって真相を探ろうとした。その結果、これらの患者では、強い光を曝露しても片頭痛の痛みは悪化しないことが示された。もう一方の患者グループは、光知覚は温存されているが極端に視力が低下しており、総合的に画像形成視力が損なわれている患者であった。これらの患者グループではやはり、光によって片頭痛の痛みが悪化した。これらの知見から考えられる理論的な推論として、光に対する感受性の増大が非画像形成性の網膜投射を介して伝達されることがあげられる。Noseda ら3 は、動物モデルにこの経路をマッピングすることによって、硬膜の有害刺激に感受性を示すニューロンを含有する視床後部領域を完全に特定することに成功した。また、こ れらの細胞群は、網膜神経節細胞および硬膜からのいずれの入力情報にも反応することが明らかにされた。これらの細胞に入力情報が収束することが、光知覚は温存されているが機能的には盲目である被験者においても光が片頭痛の痛みを増強させた理由である。一連の研究の最終段階で、研究者らは、これらのニューロンからの投射を大脳皮質にマッピングした(最初、片頭痛の推定経路は視床上にトレースにされていた)。

この研究は、数多くの問題点や可能性を提起させるものである。研究者らは、片頭痛の痛みの発生源は硬膜であると当然みなしている。硬膜は研究する際に簡単に利用できることから、この考え方は基礎を研究す る科学者にとっては便利であるが、片頭痛の専門家の全員またはほとんどは必ずしもこの考えには賛同していない。事実、片頭痛の痛みインパルス(侵害受容)の発生源に関して最近行われた解析では、従来から提起されている5 ように、片頭痛の痛みが頭蓋外組織から発生するのか、硬膜から発生するのか、または軟膜の血管から発生するのかを決定するには、現在利用可能なエビデンスは不十分であると結論づけられている。しかしながら、光に反応する痛みの経路におけるニューロンも、この硬膜の脳膜層の刺激に対して感受性を示したことから、人は、Noseda ら3 は硬膜の役割を支持する見解を提供しているではないかと主張するかも知れない。

本研究はまた、より幅広い疑問を提起している。つまり、入力情報が三叉神経の痛みの経路に収束することは、羞明の本質的な特徴であるだけでなく、痛みそのものの本質的な特徴でもあるのではないかというこ とである。過去に行われた実験的研究からは、頭蓋外組織や硬膜からの入力情報は三叉神経尾側核ニューロンに収束することが明確に示されている。なお、軟膜からの入力情報も同じニューロンに収束するかどうかについては明らかにされていない。片頭痛の侵害受容の発生源を説明するのが困難であるのは、入力情報が広範囲に収束するためであると思われる。この観点から考えると、片頭痛の侵害受容は頭蓋外、硬膜または軟膜の入力情報だけから発生するのではなく、これら3 つを合わせた入力情報から発生し、おそらく患者が違えばその関与の程度も異なる。

すべての可能性において、片頭痛の症状を単純なメカニズムだけですべて説明することは絶対に不可能であると思われる。Nosada ら3 の論文は片頭痛というパズルの一つのピースに光を当てたが、われわれの期 待はその他多くのピースが今後の研究によって説明されることである。片頭痛の研究においては、数多くの疑問が未解決のままである(特に、片頭痛の症状における視覚系以外の感覚系の関与に関して)。片頭痛患者は匂い(臭気恐怖症)や音(音恐怖症)に過敏であり、これらの症状は、特別なニューロンのサブセットの存在または硬膜感受性ニューロンへの迷走神経入力情報の投射によって説明できるかも知れない。片頭痛の他の特徴的な症状には、動作や身体運動に対する感受性だけでなく、悪心や嘔吐も含まれ、これらの症状の背景にある神経経路も解明すべき点として残されている。

doi: 10.1038/nrneurol.2010.50

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