生物学:転用された薬剤がマウスとラットの心臓損傷を治癒するかもしれない
Nature Cardiovascular Research
2024年8月27日
Biology: Repurposed drug may heal heart damage in mice and rats
多発性硬化症の治療に一般的に使用される薬剤であるグラチラマー酢酸塩が、マウスとラットにおいて心臓発作や心不全後の心臓損傷を修復することが示された。この研究結果を報告する論文が、Nature Cardiovascular Researchに掲載される。
心不全は、世界的にみても罹患率および死亡率の高い疾患であり、これまでの研究では、心臓損傷における免疫系の役割が強調されてきた。医療治療により死亡率は低下しているが、新薬や治療法の開発には多額の費用がかかるため、代替案として薬剤の転用が提案されてきた。
Rachel SarigとEldad Tzahorらは、多発性硬化症の治療に一般的に使用されている免疫調節薬であるグラチラマー酢酸塩の効果を、心筋梗塞のマウスモデルと虚血性心不全のラットモデルで調査した。グラチラマー酢酸塩を投与したマウスでは、心機能の改善と瘢痕(はんこん)領域の縮小が認められた。著者らは、この薬が心筋細胞を血液制限による細胞死から保護し、瘢痕化を軽減し、新しい血管の形成を促進することを示している。心不全のラットにおいても、グラチラマー酢酸塩が心臓のポンプ機能を改善し、呼吸器系の障害を引き起こす肺疾患である間質性線維症の特徴としてみられる、心臓の瘢痕組織の蓄積を遅らせた。
この発見に基づき、著者らはグラチラマー酢酸塩が心臓損傷の治療薬として転用できる可能性があると結論づけている。ただし、結果を裏づけるにはさらなる研究と臨床試験が必要であると指摘している。
Aviel, G., Elkahal, J., Umansky, K.B. et al. Repurposing of glatiramer acetate to treat cardiac ischemia in rodent models. Nat Cardiovasc Res (2024). https://doi.org/10.1038/s44161-024-00524-x
doi: 10.1038/s44161-024-00524-x
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