注目の論文

生態学:10年間の温暖化でオーストラリアのサンゴ礁に生息する生物種の個体数が減少した

Nature

2023年3月23日

Ecology: Australian reef species decline following decade of warming

オーストラリアの浅海域のサンゴ礁に生息する生物種の過半数は、2008年から2021年までの間に個体数が減少した。この減少傾向は、すべての種に普遍的に見られるわけではないが、海洋生態系を気候変動から守るためには保全活動の強化が必要なことを示唆している。こうした研究知見を報告する論文が、今週、Natureに掲載される。

生物多様性の変化を理解し、効果的な保全戦略を実施するためには、種個体群の詳細なモニタリングが必要となるが、海洋生態系における種の変動の経過を追うことは、特に難しい。個体数の変動は、海面下に隠されており、観測がかなり難しくなっているからだ。

今回、Graham Edgarたちは、世界で最も長く続いている3つのサンゴ礁モニタリングプログラム(リーフ・ライフ・サーベイ、Australian Temperate Reef Collaboration、オーストラリア海洋科学研究所の長期モニタリングプログラム)の結果を総合して、海洋生物種の個体数動向について大規模な評価を行った。これら3つの研究には、海水魚、移動性無脊椎動物(カニなど)、サンゴと海藻(合計4009分類群)の合計2640万回の個別観察が含まれている。これらのデータは1992年から2021年までの間にオーストラリア周辺の3075地点で収集された。

Edgarたちは、2008年から2021年までの期間に対象を絞り、調査対象種(1057種)の57%で個体数が減少し、全ての観察対象種の28%で個体数が30%以上減少したことを報告している。その内訳は、サンゴ9種、無脊椎動物36種、海藻34種、脊椎動物227種だった。また、Edgarたちは、種個体群に対する熱波の影響を測定し、2008年の海水温(基準値)と比較した。特に冷温帯種の場合には、海水温が2008年の水準から約0.5℃以上上昇した後に個体数が減少した。こうした冷温帯種の多くは、オーストラリアの固有種であり、今後も個体数減少が続けば、生物多様性が大きく減少すると考えられている。

人間の活動によって引き起こされる海水温の変動からこれらの生物種を保護する取り組みは、地球全体の生物多様性を守るために必須であり、今回の研究で得られた知見を利用できるという考えをEdgarたちは示している。

doi: 10.1038/s41586-023-05833-y

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