がん:がんにおけるゲノムの構造変異の特徴
Nature
2022年6月16日
Cancer: Signatures of structural genomic variation in cancer
がんの顕著な特徴の1つである染色体不安定性について、数千例のヒト腫瘍における染色体不安定性のシグネチャーをまとめた結果を報告する2編の論文が、Nature に掲載される。この情報資源は、がんにおけるゲノム変化に関する将来的な研究の一助になるかもしれないし、治療選択肢を導き出すための指針となる可能性もある。
染色体不安定性は、DNAの欠失、獲得、再編成につながり、がんの典型的な特徴の1つになっている。しかし、このようなゲノム変異の特徴と複数種のがんとの関連可能性を定義するための基準枠は構築されていない。これまでは、探し出すことのできた遺伝的変化を用いて、がんの病因、がんへの曝露とがんのプログレッションと相関する変異の特徴が積み上げられてきたが、がんゲノムの構造変異のパターンを同じ方法で解釈するための基準枠が存在していなかった。
今回、Florian Markowetz、Geoffrey Macintyreたちは、がんゲノムアトラス(TCGA)から得た33種類のがんの7880例の腫瘍について、染色体不安定性のパターンを調べた。そして、研究グループは、このデータを用いて、DNAのコピー数(特定のDNA配列やDNA領域の反復回数)の変動に基づいて、17種類の染色体不安定性の特徴を明らかにした。これらの染色体不安定性のシグネチャーを用いることで、腫瘍が薬物にどのように応答するのかを予測でき、将来的な治療標的の特定にも役立った。
一方、これとは独立した研究で、Nischalan Pillayたちの研究グループは、TCGAのデータセットを用いて、乳がんや卵巣がんなど33種類のがん9873例を調べて、ヒトのがんにおける染色体不安定性の21のシグネチャーを明らかにした。これらのシグネチャーは、研究対象となったサンプルの97%においてコピー数のパターンを説明することができた。Pillayたちは、今回の研究で明らかになったシグネチャーが、患者の予後評価に関して臨床的に重要な意味を持つかもしれないことを明らかにした。このことは、これらのシグネチャーを考慮に入れることで、既存の検査の精度を改善し得ることを示唆している。また、今回の研究では、明らかにされた染色体不安定性のシグネチャーと数多くのがんの既知の外的リスク要因(喫煙や飲酒など)との関連性は認められなかった。そのため、これらの構造的特徴は、腫瘍形成に関連した数々の補完的な病因過程を明らかにしている可能性がある。
Pillayたちは、今回の結果が、数多いヒトのがんの基盤となっている染色体変異の起源と多様性に関する理解を深める可能性があると結論付けている。従って、これらの研究データは、将来の研究の指針となる体系的な枠組みとなるかもしれない。
doi: 10.1038/s41586-022-04789-9
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