注目の論文

環境:北東グリーンランド氷流の氷量減少の評価

Nature

2022年11月10日

Environment: Ice loss from the Northeast Greenland Ice Stream assessed

グリーンランド氷床の一部である北東グリーンランド氷流の氷量が将来的に減少することで、2100年には海面水位が最大15.5ミリメートル上昇するかもしれないことが研究によって示唆された。この15.5ミリメートルの上昇は、過去50年間にグリーンランド氷床が寄与した海面水位の上昇全体に相当する。今回の研究を報告する論文が、Natureに掲載される。

北東グリーンランド氷流において、流れの速い本流(長さ600キロメートル、幅30~50キロメートル)が、グリーンランド氷床の内部と2つの海洋末端氷河(Nioghalvfjerdsfjord GletscherとZachariae Iststrøm)をつないでおり、これらの氷河からグリーンランド氷床の約12%が流出している。過去10年間、北東グリーンランド氷流の速度が上昇してきたが、その速度に関して不確実な点があるために氷河末端の上流側で氷の移動速度の上昇を検出できずにいた。

今回、Shfaqat Abbas Khanたちは、氷の流れの加速が上流側にどれだけ広がっているのかを調べるため、全地球的航法衛星システムのデータを使用して、氷の移動速度に関する高分解能データを収集した。データ収集は、2016年から2019年にかけて、氷河の末端から90~190 km内陸側の氷流上に位置する3カ所の観測地点で行われ、その後、これらのデータは、表面高度と流れの加速に関する以前のデータと比較された。Khanたちは、氷の移動速度の大幅な上昇と氷床の薄化が、少なくとも200 km内陸側で既に起こっており、2012年のZachariae Isstrøm氷河の棚氷の崩壊が引き金になった可能性があるという考えを示している。また、Khanたちは、北東グリーンランド氷流が、2011年から2021年までに100~200 km上流側で2~3 m薄くなったことを示したうえで、氷床の薄化が21世紀を通して加速し続けると考えている。さらに、Khanたちは、モデル化の手法を用いて、将来的な氷量の減少が、2100年に海面水位の約13.5~15.5 mmの上昇に寄与する可能性があり、これが、過去50年間にグリーンランド氷床が寄与した海面水位の上昇全体に相当することを明らかにした。

Khanたちは、今回の知見が、氷河の上流部とその末端が相互に関連していることを示し、内陸部の薄化がグリーンランド氷床に及ぼす影響可能性と将来的な海面水位の上昇の可能性もはっきりと示しており、このことが、将来予測に役立つ可能性があると結論付けている。

doi: 10.1038/s41586-022-05301-z

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