Research Highlights

骨量に対するLRP5の局所作用に関するエビデンス

Nature Reviews Rheumatology

2011年6月21日

Bone Evidence for local effects of LRP5 on bone mass

LRP5(LDL受容体関連蛋白5)がどのように骨形成に対して作用を及ぼすかという問題が議争を呼んでいる。Nature Medicine 誌でCuiらが発表した新たな知見は、骨におけるLRP5シグナル伝達が局所的に果たす役割を支持している。

ヒト遺伝性疾患に関する2つの研究によって、LRP5の骨量調節における役割が初めて示唆された。LRP5のヘテロ接合型ミスセンス変異は、優性遺伝性の高骨量(HBM)表 現型をもたらすが、機能喪失型変異は、低骨量に関連する骨粗鬆症・偽性神経膠腫症候群(OPPG)を引き起こすことが示された。「骨研究分野で大いに関心を集めたのは、 LRP5がWntシグナル伝達経路で機能すると考えられる点であった。この経路が骨強度の調節に関与することはそれ以前には示されていなかった。」と、著者の1人であるMatthew Warmanは述べている。別の研究から得られたデータにより、骨量の増加においてWntシグナル伝達が直接的な役割を果たすことも裏づけられている。しかし、LRP5が骨組織の細胞で局所的に機能していること、すなわち骨の細胞におけるWntシグナル伝達のトランスデューサーであることを示す直接的証拠はまだ得られていなかった。

LRP5 は、驚くべきことに、骨芽細胞に対するWnt共受容体としての役割によってではなく、腸内のセロトニン(5-ヒドロキシトリプトファン)産生に対する作用を介して、間接的に骨形成に影響を及ぼすという仮説が立てられていた。Cuiらにとっては、このセロトニン仮説を独自に検証し、そしてLRP5がいつ、どのように機能して骨量を調節するのかを明らかにすることも目的であった。ところが、Cuiらのデータにより、セロトニンをベースとした機序が確認される代わりに、LRP5が骨細胞において局所的に機能することが示唆された。

著者らは、種々の細胞型、種々の週齢の動物あるいは分化段階の異なる細胞において、活性化または不活化される条件付きアレルを作成することにより、マウスモデルの LRP5機能部位を決定することができた。この方法により、遺伝性のLRP5 HBMアレルの作用と活性化LRP5 HBMアレルの作用を特異的細胞型で比較可能となった。「おそらく、 今回の研究から得られた最も興味深い結果は、最も成熟度の高い骨の細胞、すなわち骨細胞においてLRP5 HBMアレルを活性化することが、すべての細胞における遺伝性の 活性LRP5 HBMと同等に、骨量の増加に有効であると考えられることであった。」と、Warmanは述べている。また、骨細胞においてLRP5を特異的に不活性化したマウスは、 その野生型同腹仔と比べて骨量が少なかった。

これらの結果を合わせると、成熟細胞では骨量がLRP5シグナル伝達により調節されることが示される。「この観察結果の重要性は、未分化な細胞を標的として骨形成細胞へ と変化させる治療法を見つける必要はないと考えられることである。そうではなく、LRP5のHBM 変異が骨細胞に及ぼす影響を模した治療法が、骨量および骨強度の増加に 有効となり得る。」とWar manは述べている。

Cuiらにより、腸におけるセロトニン合成に対してLRP5遺伝子型は作用を及ぼさないと明らかにされた。十二指腸のセロトニン産生細胞におけるLRP5 HBMアレルの活性化、 または野生型LRP5の不活化は骨量に影響を及ぼさなかった。また、骨量は、遺伝または薬物により誘導されたかどうかにかかわらず、末梢セロトニン合成の律速酵素である トリプトファンヒドロキシラーゼ1の阻害による影響を受けないと考えられた。本研究と、セロトニン仮説の元となった初期の研究との不一致の理由はまだ明らかでないが、研 究対象としたマウス、または研究のその他の技術的側面の相違が関係している可能性がある。

Cuiらのデータでは、腸におけるLRP5発現が骨量に大きな影響を及ぼすというモデルは裏づけられていないが、LRP5が別の部位で果たす機能を介して、間接的に骨量を 調節している可能性は否定できない。著者らは、この可能性を検討するためにさらなる検証を行い、四肢骨格で骨を形成する細胞でLRP5 HBMアレルを選択的に活性化させ、 軸骨格で骨を形成する細胞では同アレルを活性化させなかった場合、四肢の骨量は増加したが脊椎の骨量は増加しなかったことを示した。

要約すると、Cuiらの発表したデータにより、LRP5は骨細胞のWntシグナル伝達を介してマウスの骨量を調節する機能を有し、他の部位を介するというよりも局所的に作用 することが示される。

著者らは現在、高齢マウスにおけるLRP5活性の増加が、骨量および骨強度の増加に対して若齢マウスと同等に有効であるかを明らかにしようとしている。これが示された場合、 ヒトの加齢関連骨粗鬆症の治療にLRP5を標的とした介入が適用できる可能性がある。

doi:10.1038/nrrheum.2011.84

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