Year In Review

関節リウマチの2010年:腸から関節へ

Nature Reviews Rheumatology

2011年2月2日

Rheumatoid arthritis in 2010 From the gut to the joint

2010年は、微生物がRAの病因として関与する可能性を示すエビデンスから、早期RAおよび確立されたRAの治療を目的とした新規の戦略や薬剤の開発に至るまで、RAの領域でいくつかの興味深い研究が発表された年であった。

関節リウマチ(RA)の領域において、基礎研究と臨床研究から多くの新知見が得られた。その結果、現時点では5つの異なる分子標的を阻害する様々な生物学的 製剤が広く用いられるに至っている。これらの進歩は、RAの病態解明により可能となったものであり、また様々な標的療法における有効性や失敗のデータから、RAの 病態において様々な細胞や分子が関与する(またはしない)ことが認識されるようになった。2010年は、基礎、臨床の両面から新たな知見が加わった年であった。

このような病態に関する洞察とは対照的に、感染性病原体の関与が以前より推測されているにもかかわらず、RAの病因に関する知見は乏しい。Hsin-Jung Wu1らは、 この現在進行中の議論に新たな切り口を提供する研究成果を発表した。WuらはK/BxNマウスモデルを用いて、細菌のいない環境で飼育されたマウスでは、関節炎の臨 床徴候が大幅に軽減されることを示した。このような臨床上の影響に伴って、関節源性自己抗体の血清濃度の低下、脾臓における自己抗体分泌B細胞と胚中心(GC)形 成の減少が認められた。さらに、Wuらは、単片利共生微生物、セグメント細菌(SFB)の導入により、自己免疫反応を誘発できることを示した。この関節炎の発症は、 主に17型ヘルパーT(TH17)細胞の制御されない反応によっておこる。TH17細胞は、RAの病因に重要な役割を果たすと考えられているT細胞サブセットである。TH17細胞は小腸の固有層から脾臓に遊走し、そこでTH17細胞の活性亢進または高濃度のインターロイキン(IL)-17 が、自己反応性GC細胞の生成を刺激し、関節源性自己抗体の産生を増強する。このようにして、TH17細胞の反応は小腸から二次リンパ器官に、そして最終的に 滑膜組織そのものに作用を及ぼすことになる。

小腸には、数千種類から成る微生物集団が定着している。しかし、これらの微生物はその宿主と共生関係を保っており、栄養素の産生、解毒、病原体に対する 防御、正常な免疫系の発現に関わっている。これら細菌集団の組成が変化することは、宿主の炎症促進性および炎症抑制性の機構に不均衡をもたらす可能性があ る。これは腸内毒素症と呼ばれる病態である。

微生物が病因に関与している可能性を示した別のエビデンスが、Wegnerらの研究から得られている。この研究は、歯周病に関与する口腔内微生物であるPorphyromonas gingivalis にヒト蛋白質をシトルリン化する酵素作用があることを示した研究である。ペプチドをシトルリン化する自己抗体は、RAにおいて診断的お よび予後的意義を有する。

病因論から治療の問題に目を移すと、早期診断とDMARDによる治療はRAの長期アウトカムを改善するうえで極めて重要である。しかし、自然治癒する関節病 変に比べ、持続性で破壊性の炎症性関節病変を診断することは難しい。グルココルチコイドによる早期治療は、極めて早期の診断未確定の関節炎において寛解率を高 めることが示唆されている。この仮説を検証するため、また早期関節炎の性質と予後について洞察を得るため、SAVE試験(研究者主導の二重盲検プラセボ対照臨床試 験)が実施され、あらゆるタイプの関節炎を有し罹患期間16週未満の患者を対象に、メチルプレドニゾロン120mgの単回投与(筋注)とプラセボが比較された。主要 評価項目は、12週と52週における薬剤投与のない臨床的寛解であった。

12週と52週の両時点で主要エンドポイントである持続的寛解を達成したのは患者のわずか17%で、2群間の寛解率に差は認められなかった。この結果は、グルココル チコイドは寛解率を高めることもなく、持続的な関節炎も阻止しないことを示している。このデータは、グルココルチコイドによる早期治療を検討した同様の試験であ るSTIVEA試験の結果とは若干異なっている。STIVEA試験ではメチルプレドニゾロン80 mgを週1回3週間にわたり筋注したところ、実薬群ではプラセボ群と比べて関節 炎の寛解率が2倍であった(20% vs 10%、P =0.048)。しかし、いずれの試験でもグルココルチコイド群の寛解率は同等であり、異なっているのはプラセボ群の寛解率 のみであった。したがって、SAVE試験とSTIVEA試験はいずれも、グルココルチコイドが早期関節炎の回復をもたらす能力は低いことを確認するものであった。

SAVE試験では、早期関節炎の性質に関する新たな知見も得られた。第1に、罹患期間8週未満の関節炎を有する両群の患者は、罹患期間が8週以上の患者と比べて、 持続的寛解の達成率が高かった。第2に、罹患期間が8週以下の場合、関節炎が4箇所以下である少関節炎患者では関節炎が4箇所を超える多関節炎患者と比べて 寛解率が高かった(それぞれ39%と17%)。期間が長くなると、両群とも寛解率が大幅に低下した。

これらのデータから、症状の持続期間が8週を超える関節炎では自然寛解は極めてまれであることが示唆される。したがって、関節炎の持続は早い段階で予測可能で ある。結論として、関節炎の持続期間が8週を超える患者では「過剰治療」を受けることはあり得ず、DMARD療法をすみやかに開始すべきである。さらに、短期のグ ルココルチコイド療法は、ベネフィットが得られるとしてもごくわずかなものであり、関節炎の持続を阻止することはできない。重要なことは、米国リウマチ学会(ACR) と欧州リウマチ学会(EULAR)が共同で最近作成された分類基準は、RAの早期診断の手助けとなるということである。

生物学的製剤は、活性化するとシグナル伝達のカスケードを起動する細胞表面抗原やサイトカインを標的とする。さらに、これらのシグナル伝達分子自体も 治療標的となる。2010年に行われた臨床試験で脚光を浴びたのは、脾臓チロシンキナーゼ(Syk)阻害薬fostamatinibの有効性と安全性に関する第II相試験8の データが発表されたことであった。Sykは細胞質内に存在する蛋白チロシンキナーゼで、免疫受容体のシグナル伝達に関与し、広範な造血細胞に発現している。Sykは 滑膜でも認められることがあり、活性化されると炎症性サイトカインが誘導される場合がある。

Weinblattらは、メトトレキサート療法にもかかわらず活動性を有する患者に、fostamatinib(150 mg1日1回または100 mg 1日2回)またはプラセボによる 6ヵ月の治療を行った。主要評価項目はACR基準による20%改善(ACR20)で、その達成率は、プラセボ群35%、fostamatinib 150 mg 1日1回群57%、100 mg 1日2回群67%であった。プラセボに対する実薬治療の効果の差は、ちょうど1週間後から認められた。いくつかの副次的評価項目(ACR50やACR70、機能指 標、平均C反応性蛋白など)も、fostamatinibがプラセボより優れていた。寛解に近い状態(28関節の活動性スコア[DAS28]<2.6と定義)は、プラセボ群の7%、 fostamatinib 150 mg 1日1回群の21%と100 mg 1日2回群の31%で認められた。頻度の高い有害事象は、下痢、回復可能な好中球減少症、血清アミノトランスフェ ラーゼ高値であった。

過去、生物学的製剤により十分な反応が得られなかった患者15%のサブ解析では、ACR20達成率は、プラセボ群14 %、fostamatinib 150 mg 1日1回群46%、100 mg 1日2回群43%であった。しかし、興味深いことに、この特定の患者集団を対象として別に実施された3ヵ月にわたる第II相試験では、fostamatinib 100 mg 1日2 回の有効性は示されなかった。特記すべきこととして、この試験の一環として行われたMRIを用いた副次的研究では、fostamatinib投与後に顕著な滑膜炎スコアの改 善を認めたのに対し、びらんの進行は実薬群とプラセボ群の両方で同等であった。

Weinblattらの研究から、RAの治療にfostamatinibは有効な薬剤であることが示唆された。この結果は、今後第III相試験で確認する必要があり、またびらんに 関する否定的なMRIデータと照らして、fostamatinibの有効性が骨および軟骨破壊の抑制にも認められるかどうかを明らかにすることが重要となる。

いまやfostamatinibは、シグナル伝達に関与する蛋白キナーゼを標的とする小分子としては2番目に有効な薬剤である。既報により、ヤヌスキナーゼ3(JAK3)阻 害薬であるtasocitinibも、同様な有効性をもっている。興味深いことに、Jakは、主にサイトカインのシグナル伝達に関与するのに対し、Sykは免疫受容体のシグナル伝 達に関与する。しかしながら、JAK阻害薬とSyk阻害薬の全体的な奏効率は同等のようであり、このことは異なる生物学的製剤で同等の奏効率がみられるという我々の 経験に一致している。

非経口投与の生物学的製剤と同等の有効性をもつ経口製剤が利用できるということは、有害なシグナルが認められないとすれば、重要な進歩である。有効性の高 い薬剤がより多く利用できるようになれば、より多くのRA患者に優れた治療結果を提供できることが可能になる。加えて、いつの日かRAの病因を解明して、根治可 能な原因治療が可能になることが期待される。

doi:10.1038/nrrheum.2010.226

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