Research Highlights

NSAID使用による心血管リスク:どのNSAIDが最も安全か

Nature Reviews Rheumatology

2011年3月1日

Pain The cardiovascular risks of NSAID use which NSAID is the safest of them all?

NSAIDは、変形性関節症などの長期的に疼痛をもたらす疾患の患者において、疼痛管理に用いられる主な薬剤である。しかし、選択的シクロオキシゲナーゼ2(COX2)阻害薬であるrofecoxibの使用者では有害な心血管事象のリスクが増加するというエビデンスに基づき、2004年に同薬剤の承認が取り消されたことを受けて、その他の選択的COX2阻害薬および従来のNSAIDの安全性に関する議論が起こった。これまでに得られているデータによると、個々のNSAIDの安全性プ ロファイルは大きく異なっているため、臨床医はどのNSAIDが心血管に対して最も安全であるのかという疑問を抱いている。スイス研究チームが、この疑問に答えるべくネットワークメタ解析を試みており、その結果が今回British Medical Journal に掲載された。

この論文の責任著者であるPeter Jüniによれば、NSAIDの心血管関連の安全性を包括的に比較しようというこれまでの試みは十分ではないという。「数件の通常のメタ解析 は上記の議論を解決することができなかった。それは、無作為化試験から得られている全てのエビデンスを単一の解析に統合しなかったからである」とJüniは説明する。「それ こそが、ネットワークメタ解析により達成されることだ。ネットワークメタ解析では、NSAIDを比較している無作為化対照比較試験を全て、無作為化を尊重しながら統合し、整 合性のとれた解析を行うことが可能である。それらの臨床試験が、薬剤同士の比較であるか、プラセボとの比較であるかは関係ない。」

本解析は計31件の無作為化対照比較試験を対象とし、患者116,429例および追跡調査115,000患者・年のデータを組み込んだ。小規模研究(追跡調査100患者・年未満の 研究と定義)は除外した。組み入れた試験は全て、何らかの疾患を有する患者におけるNSAIDと他のNSAID、パラセタモール、プラセボを比較したものである。本解析で比較 されたのは7種類のNSAIDで、4種類の選択的COX2阻害薬(セレコキシブ、etoricoxib、rofecoxib、lumiracoxib)および3 種類の従来型NSAID(ナプロキセン、イブプロフェン、ジクロフェナク)であった。

主要評価項目は心筋梗塞(致死的または非致死的)であった。副次的評価項目は、脳卒中(致死的または非致死的)、心血管死(あらゆる心血管の原因による死亡また は原因不明の死亡)、全死因死亡、Antiplatelet Trialists’Collaboration(APTC)による複合転帰(非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中、心血管死)であった。これらの転帰のリスクをそれぞれ、プラセボと比べた各NSAIDの率比(RR)として推定した。得られたデータは、実際に記録された心血管事象数が少ないため、そこから算出される推定値が不正確であることを考慮に入れるために、RR値1.3を「臨床的に有意な」リスク増加の閾値として事前に規定した。

「この解析ではいくつかの臨床的に意義のある毒性シグナルが認められ、薬剤の個々の安全性プロファイルは用いられた評価項目によって大きく異なっていた」とJüniは語っ ている。「特に、心血管リスクは、選択的COX2阻害を機序とするNSAIDと明確には関連しないことが明らかにされた。これにより、そうした特異性に基づき心血管リスクを予測することはできないことが示唆される」。 Rofecoxibは、プラセボと比べて心筋梗塞のリスクが最も高く(RR=2.12)、次いでわずかの差でlumiracoxibが高 リスクを示し(RR=2.00)、ナプロキセン、ジクロフェナク、etoricoxibのリスクが最も低かった(それぞれ、RR=0.82、0.82、0.75)。しかし、etoricoxibおよびジクロフェナクは心血管死のリスクが最も高く(それぞれ、RR=4.07および3.98)、この場合もナプロキセンがプラセボと比べてリスクが低かった(RR=0.98)。実際、解析した測定法の大部分において、ナプロキセンは全NSAIDの中で心血管安全性プロファイルが最も好ましいことが示された。しかしJüniによれば、「この有利性は、ナプロキセンの消化管毒性プロファイルや、多くの患者でプロトンポンプ阻害薬と併用する必要性があるということを考慮して検討しなければならない」という。

結局、本ネットワークメタ解析では、慢性筋骨格痛を有する患者、すなわち、いくつかの理由により心血管事象のリスクがすでに高い場合が多い患者群の治療に、どのNSAIDが最も安全であるか、という疑問に対する最終的な決定的回答を得ることはできないと考えられる。これらの患者におけるNSAIDの代替薬は少なく、いずれも有効性と安全性の面で限界がある。このため、心血管リスクはやはり、慢性疼痛にNSAIDを処方する際の重要な考慮事項であり、長期NSAID療法を受けている患者では緊密な監視が必須であると考えられる。

doi:10.1038/nrrheum.2011.9

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