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治療法:全身性エリテマトーデスにおけるhydroxychloroquine:古い薬剤に対する新たな展望

Nature Reviews Rheumatology

2010年1月1日

Therapy Hydroxychloroquine in SLE old drug, new perspectives

抗マラリア薬は自己免疫疾患の治療に長年用いられてきたが、その多様な効果の基礎となる正確な機序に関しては明らかにされていない。抗マラリア薬が重篤な感染症を防御するというエビデンスの増加により、メカニズムに関する多くの研究が促され、治療への応用が考えられている。

クロロキンは、そのヒドロキシ誘導体であるhydroxychloroquineとともに、当初は抗マラリア薬として用いられていたが、関節リウマチや全身性エリテマトーデス(SLE)などの自己免疫疾患の治療にも有用である。クロロキンとhydroxychloroquineはSLEの治療薬として承認されており、再燃(特にループス腎炎)頻度の低下、寛解の維持への寄与、SLE発症の遅延、合併症リスクの低下が示されている1-5。SLEの免疫調節作用以外にも、血栓性イベントの防止2、糖および脂質プロファイルの改善、腎障害の予防6により、SLEが独立した危険因子となっている心血管リスクを明らかに低下させることも示されている。さらに、抗マラリア薬を服用したSLE患者で生存率の上昇も報告されている。

抗マラリア薬は、特に近年SLE患者で用いられている治療法と比べ安価であり、網膜毒性リスクを除いて忍容性も全般に良好である。現在のところ、他の免疫抑制薬の使用に伴 い発生することが知られている感染症について、抗マラリア薬と感染症発生率の上昇の関連は明らかにされていない。このような状況において、驚くべきことに、SLE患者における感染性合併症の予測因子の特定を試みた最新のコホート内症例対照研究7により、プレドニゾン療法(オッズ比[OR]1.12、95%CI 1.04~1.19)および肺合併症(OR 4.41、95%CI 1.06~18.36)では重大な感染症リスクが増加したのに対し、抗マラリア薬療法(OR 0.06、95%CI 0.02~0.18)では同リスクが低下したことが報告された。興味深いことに、重大な感染症を発症した患者では、プレドニゾロン用量の中央値は1日7.5mg であり、用量が1日あたり10mg増加するごとに感染症リスクは11倍増加した。本試験では、シクロホスファミド曝露と活動性ループス腎炎は感染症の増加に関連しなかった。これは、組み入れ患者数が不十分であったことが原因と考えられる。

Ruiz-Irastorzaら7が実施した本研究は、組み入れ患者数がSLE患者がわずか83例で、対照は166例であった。このためその結果には限界があるが、抗マラリア薬で治療した 患者では、主な感染症のリスクが抗マラリア薬で治療しなかった患者に比べて16分の1に低下することが示されている。このような抗マラリア薬の感染症防御作用は、SLEを対象 とした2件の既発表研究から得られた観察結果と一致する。ループス腎炎患者を対象とした後ろ向き研究では、抗マラリア薬による治療歴がある患者で感染症の頻度が低いことが特定された。SLE患者を対象とした別の試験8では、hydroxychloroquine療法により重篤な感染症のリスクが低下し、オッズ比は0.05(95%CI 0.01~0.23)であることが明らかにされた。この数値は、疾患活動性により部分的に補正したRuiz-Irastorzaら7の結果と同等である。

これらのデータを確認するための前向き研究が必要であるが、抗マラリア薬、特にhydroxychloroquineの有用性の評価には、その基礎となる作用機序の再検討が必要である。抗マラリア薬は、ループス再燃に関する臨床的予防の有用性、生存率の上昇、重大な臓器損傷・塞栓・骨量低下の予防、妊娠女性に対して使用が可能などのほかに、重大な感染症を減少させる指標があることから、「魔法の治療薬」という新たな観点から見直されると考えられる。最も特筆すべきことは、関節リウマチ患者においてもhydroxychloroquine使用により感染症が同様に減少することが認められたことで、感染症の減少がSLEに限らない可能性が示唆されている。

通常、SLE患者の治療に免疫抑制療法を検討する際に重要な点は、感染症リスクが大幅に増加することである。免疫抑制薬、とりわけステロイドは、SLEの活動性、ループス腎 炎の存在または血清補体価の低下と同様に、感染症発生率を増加することが示されている。全身性自己免疫疾患では、疾患活動性と治療強度の選択のあいだの密接な相互関係が 重要であるが、日常臨床の場におけるの原則の1つとして、活動性のきわめて高い疾患の患者に強化治療を行うと感染症のリスクが増加させると言われている。では抗マラリア薬 は、この原則をいかに打破しているのであろうか。

Ruiz-Irastorzaら7によるデータが前向き臨床研究で確認されたとしても、抗マラリア薬に関する独特な免疫調節作用と抗感染作用については依然解明されないまま残される。抗マラリア薬は当初抗寄生虫薬として用いられていたが、少なくともin vitro では抗微生物作用があることも示されている。例としては、Tropheryma whippelii 、黄色ブドウ球菌、レジオネラニューモフィラ菌、マイコバクテリウム属細菌種、チフス菌、大腸菌、ライム病菌などの細菌、真菌10、HIV、重症急性呼吸器症候群(SARS)ウイルス、コロナウイルスなどのウイルス7,10があげられる。免疫調節作用とさまざまな抗微生物作用を併せもつという抗マラリア薬の優れた特性は注目に値し、さらに、免疫応答への介入と防御それぞれにこれまで知られていなかった経路があることが示唆される。

抗マラリア薬の作用機序を説明する概念として、これまで主に2つの仮説が提唱されている。ファゴリソソームのアルカリ化により細胞内の細菌や真菌が死滅するという仮説と、 ウイルス侵入やタンパク質糖化に関連するいくつかの段階が遮断されることによりウイルスの増殖が防止されるという仮説である。抗マラリア薬の抗細菌作用と抗真菌作用は、抗原提示への干渉が関連すると考えられる。これはpH依存性の鉄欠乏により仲介され、ファゴリソソームpHの上昇により調節される。そして、最終的に免疫系の活性化を抑制し、細胞内生物の増殖を阻害する。さらに、抗マラリア薬により細胞内のpHが塩基性に誘導されるため、抗ウイルス作用が付与され、新たに合成されたタンパク質の糖化阻害など、加水分解酵素と翻訳後修飾が阻害される。特に、糖化の阻害はクロロキンと糖修飾酵素またはグルコシルトランスフェラーゼに相互作用を引き起こす。これにより、細胞内機能と細胞外機能(例えば、表面受容体への結合)など、シアル酸依存性の多くのプロセスに対する作用が説明されると考えられる。

第3のより魅力的な概念は、自然免疫活性化への干渉、つまりToll様受容体(TLR)3、TLR7、TLR9の阻害による干渉が、抗マラリア薬の多数の作用に関与するという仮説である。つまり、抗マラリア薬は、細胞内コンパートメントに保護されていてSLEではインターフェロンの活性化を阻害するTLR7およびTLR9による核酸結合の細胞内認識を干渉する。TLRによる認識は感染防御にも関与するため、抗マラリア薬が細胞内pHを変化させることによりTLRを顕著に阻害するという着想は関心を呼んでいる。

SLEに対する抗マラリア薬の臨床上の有用な効果は報告されているが、臨床研究やさらに詳細な基礎研究により確認し、その作用機序を解明する必要がある。SLE患者のうち抗 マラリア薬で治療されているのは約40~50%に過ぎないため、抗マラリア薬について得られているデータから、抗マラリア薬が禁忌ではないSLE患者における多面的な効果の再 検討が必要とされる。最終的に、抗マラリア薬の個々の作用に対する理解を深めることにより、免疫調節作用と抗感染作用とを併せもつだけではなく、SLEの病因に対する新たな洞察をもたらすような革新的な治療薬開発への道が拓けるものと考えられる。

doi:10.1038/nrrheum.2009.235

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