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治療:標的を定めていても問題は残る:EfalizumabとPML

Nature Reviews Rheumatology

2009年8月1日

THERAPY Targeted but not trouble-free efalizumab and PML

2009年4月、efalizumabは、乾癬治療の市場から撤退した。長期投与と進行性多巣性白質脳症(PML)の発症との関連性を示す報告がなされたためである。この出来事は、慢性炎症性疾患に対して免疫抑制療法を受けている患者における、命にかかわることもあるこの疾患のスクリーニング・診断・治療に関する、高 い認識と研究が緊急に必要なことを示している。

幅広く複雑な免疫抑制療法の分野は大きく進歩し、その例として特に標的を定めた生物学的療法の登場が挙げられる。これらの治療は、特定の疾患または疾患群の病態形成に重要と考えられる、特定の炎症性メディエーターまたは経路を標的として、「いわば手術のように除去する(surgical strike)」ことを目指す。すなわち、疾患の臨床特性に関与する炎症カスケードを阻止しつつ、従来の治療による幅広い免疫抑制の有害な結果を避ける。このような標的治療は、目的達成において大きな成功を収め、いくつかの慢性炎症性疾患の治療を根本から変化させた。しかし、これらの薬剤の限定された作用機序によって、重篤な薬剤関連性の毒性作用が発現しなくなっているわけではない。このことに関する、粛然とさせるような事実が、efalizumabに関連したPMLの発症に関する最近の報告で示された。

Efalizumabは当初、中等度~重度の尋常性乾癬の治療用として、2003年にFDAによる承認を受けた。この薬剤は乾癬性関節炎の治療用には承認されていなかった。Efalizumabは腫瘍壊死因子(TNF)阻害薬療法が禁忌、または無効、あるいは忍容できない乾癬患者に対して特に有用だと考えられていた。Efalizumabは、リンパ球機能関連抗原1鎖(LFA1)の構成要素であるCD11aに対するモノクローナル抗体である。LFA1はリンパ球などの白血球で発現されており、これらの白血球を末梢循環から炎症部位へ放出させる際に重要な役割を果たしている。このような放出を阻害すると、エフェクター細胞の動員が劇的に低下し、罹患した皮膚の炎症反応が鎮められる。しかし、LFA1を阻害すると、感染部位への白血球の動員も抑えられることがある。最近のデータでは、efalizumab投与により、患者において特定の感染症(細菌、ウイルス、および真菌病原体の感染)のリスクが増加したことが示された。

PMLは、死に至ることが多い、脱髄性の中枢神経系疾患であり、John Cunningham(JC)ウイルスの再活性化により生じる。JCウイルスは、実質的にはどこにでもみられる感染性病原体である。PMLの形での再活性化は、限定された免疫抑制状態で生じることが最も多いが、免疫抑制状態でのみ生じるわけではない。慢性炎症性疾患ではPMLはまれにしか発症せず、普通は免疫抑制療法が原因である。しかし、最近の報告では、免疫抑制療法とは無関係に、全身性エリテマトーデスとPMLのリスク上昇との関連性が示唆されている。PMLのプロファイルは、近年、他の2種類の生物学的製剤、natalizumabおよびリツキシマブの投与患者での発症報告により注目された。

Efalizumab投与を4年間受けた高齢の乾癬患者にPMLが発現したことから、2008年10月、efalizumabの医薬品添付文書に、PMLを含む感染症のリスクに関する黒枠警告が記載されることとなった。また、efalizumab投与を受けた乾癬患者において、明らかにされた2件の(および可能性のある1件の)PML症例がさらに報告されたため、2009年2月1にefalizumab投与患者のPMLリスクに関するFDA勧告が発表され、2009年4月、Genentech社は自主的にこの薬剤を市場から回収した。

これらの患者はいずれも、他のタイプの免疫抑制療法を受けておらず、定義された他のPML発症の危険因子(HIV、癌、臓器移植など)は報告されていなかった。特にこのような状況では(HIVが関連していない限り)PML症例がこれまで全く報告されていなかったため、約46,000例の乾癬患者に4例のPMLが発症したという事実は、明白な懸念事項である。しかし、この懸念は、4例が全て、3年以上efalizumab投与を受けた約1,100例の患者に含まれていたという事実により、さらに大きくなった。PMLの危険因子が認識されていない退院患者100,000例あたりのPML発症率が0.2例であることを示す、全国的な退院データベースから得られた最近のデータ6を考慮すると、これはなおさら心配なことで ある。

Efalizumab投与患者がPMLを発症しやすくなる潜在的機構は、いまだ確立されていない。しかし、これまでにnatalizumab投与患者で仮説が立てられている機序7が、おそらく部分的にefalizumabに適用できると考えられる。中枢神経系内の免疫監視の相対する阻害および中枢神経系へのエフェクター細胞の動員減少である。

新しい治療法を受けた患者におけるPMLの重要性の評価には、困難な点が多数あることは明らかである。第一に、基礎的な慢性炎症性疾患そのものに起因するPMLリスクに関する正確なデータが不足している。最近の報告では、全身性エリテマトーデスがPMLの罹患しやすさに関連している可能性が示唆されているが、これが他の慢性炎症性疾患に拡張できるかどうかは不明である。第二に、従来の免疫抑制療法との比較が困難である。なぜなら、このような薬剤は現行のFDA基準による市販後調査に従わないためである。第三に、PMLは、見逃されることが多い。臨床症状が基礎疾患の神経学的な関与に起因すると誤って判断されてしまう慢性炎症性疾患の患者においては、特に見逃されることが多い。

PML診断の困難さは、多数の問題から生じている。例えば、認識の欠如、PMLの臨床特性およびX 線検査に基づく特徴が非特異的であること、および脳脊髄液のルーチン検査では典型的な所見に乏しいことなどである。PMLの診断には、鑑別診断法における積極的な考察が必要である。PCRで脳脊髄液中にJCウイルスが検出されれば、PMLの診断は確認できる。しかし、PCR検査が陰性でも、決してPMLの診断が除外されるわけではない。もし臨床的な疑いが濃い場合は、PCR陰性患者であっても脳生検を行って診断を確認すべきで ある。

PMLはまれな疾患であるため、efalizumabなどの生物学的療法を受けた患者におけるPML発症は、いっそう注目に値し、慎重に考慮するに値する。慢性炎症性疾患とその治療において、JCウイルスの複製制御およびPML発症予防に関与する宿主因子、ならびにこれらの防御機構を阻止する方法をよりよく解明するために、今後の研究が緊急に必要である。

doi:10.1038/nrrheum.2009.142

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