Research Highlights

健康食品の組み合わせ摂取がアルツハイマー病の発症リスクを低減

Nature Reviews Neurology

2010年6月1日

Alzheimer disease Eating a combination of healthy foods lowers the risk of developing Alzheimer disease

コロンビア大学メディカルセンター(ニューヨーク)のYian Gu らの研究結果によると、ナッツ、野菜、魚やトリを豊富に含む食事によって、アルツハイマー 病(AD)の発症リスクを低減させることができることをArchives of Neurology に発表した。彼らの研究結果からは、食品と栄養素を組み合わせて摂取すると、それらを個々に摂取するよりも疾患リスクにより大きな影響を及ぼす可能性があることが示唆されている。

食事はAD における修正可能な環境的危険因子の最も重要なものの一つであり、過去に実施された研究では、この神経変性疾患に対して保護的に働く可能性のある特定の食品や栄養素に焦点が当てられてきた。こ のアプローチ法によって「良い食品(good foods)」が特定されたが、現代的な食品を組み合わせて摂取することや栄養素同士の相互作用に関しては無視されてきた。一方、栄養と認知機能低下との関連性を評価するために、それに代わるアプローチ法として食品パターン(dietary pattern; DP)解析が用いられるようになってきた。その後、地中海食品(Mediterranean diet; MeDi) がAD の発症リスクを低減させ、この食品の組み合わせには保護的な作用があることが示唆された。しかしながら、MeDi は特殊かつ限られた食品であり、地中海沿岸各国以外の多民族国家では、この食品だけを固執して摂取することにはバラツキがあるようである。

3 つ目のアプローチ法は、研究対象の母集団から(食習慣を統計学的に解析することによって)DP を見いだし、これらのデータを疾患と特異的な関連性を示す栄養素に関する知見と組み合わせる方法である。この方法を用いることによって、癌、糖尿病および冠疾患の発症リスクと強い相関性を示すDP が特定された。Yu らは、食品の組み合わせがAD の発症リスクに及ぼす影響を評価するため、このアプローチ法を神経学の分野に初めて適用した。

ニューヨーク地区に居住している65 歳以上の被験者2,148 名を対象として研究が実施された。神経学的評価の結果では、これらの被験者は研究開始時には認知症ではなかった。食習慣は、前年に30 の食品グ ループのうちの61 食品の摂取状況を調べる「食品の摂取頻度に関する質問票(food frequency questionnaire)」を用いて評価された。この調査結果から、7種類の「鍵となる栄養素」の消費状況が算出され、またこの研究コホートにおいて7 種類の異なるDP が特定された。

3.9 年の平均追跡期間において、253 名(11.9%)が認知症を発症した。1 つのDP(DP2)に関して、AD の発症リスクとの関連性が認められ、このDP を強く固執して摂取することがAD の発症リスクを著 明に低減させることが示された。

この論文では、DP2 は「サラダドレッシング、ナッツ、魚、トマト、トリ、アブラナ科野菜、果物および混緑色野菜」を多く摂取し、「高脂肪食品、赤身肉、内臓肉およびバター」はあまり摂取しないことが特徴 づけられている。この料理には多価不飽和脂肪酸、ビタミンE および葉酸が豊富に含まれており、飽和脂肪酸やビタミンB12 の含有量は低い。

この知見は、これらの食品を組み合わせて摂取することでAD の発症リスクが低減する可能性を示唆している。また本研究では、食事と認知機能低下との関連性を評価する上では、DP 解析の方が個々の食品や 栄養素を解析するよりも優れたアプローチ法であることを提案している。

Yu らは、自分たちの研究に関していくつかの限界があることを認めている。フォローアップ研究ではDP は概して安定していることが示されているが、本研究におけるDP に関する情報は、研究の前年のみか ら得たものであった。また、当初の標本である4,166名から脱落した例によって、選択バイアスが引き起こされた可能性がある。

本研究のDP2 を構成する食品は概して、健康的かつバランスの取れた食事を構成する食品であると考えられる。またDP2 はMeDi に非常に似ているが、母集団の中で自然に発生したDP であることから、臨 床的な有用性はより高いものである可能性がある。Rush 大学栄養学・栄養疫学分野部長のMartha Clare Morris は、「それぞれの民族文化の中で主に食べられている個々の食品アイテムの摂取量を増やしたり、逆に避けたりすることは、他の文化圏の食物を摂取するよりもより簡単である」と指摘している。

Morris によると、引き続き「認知症の発症における個々の食事成分の関与について調べる」一方で、将来的な研究によって、他の文化圏における認知機能低下に及ぼす食品の組み合わせの影響を評価すべきであるという。いくつかの食品は「疾患の予防とは関連しないが、他の予防的な食品と単純に相関する可能性がある」ともMorris は述べている。同様に、ビタミンB12 は認知機能の低下そのものと関連性を示すよりもむしろ、赤身肉の摂取のマーカーとなる可能性がある。Yu らの研究は栄養素に特化した過去のエビデンスから情報が与えられたが、この分野におけるさらなる研究の発展が、より精度の高いDP解析結果につながると思われる。

doi:10.1038/nrneurol.2010.56

「レビューハイライト」記事一覧へ戻る

プライバシーマーク制度