Research Highlights

GLIからヘッジホッグを切り離す

Nature Reviews Cancer

2009年3月1日

Disconnecting Hedgehog from GLI

ヘッジホッグシグナル経路は膵管がん(PDAC)の形成に関与しているとされてきたが、この経路ががん細胞内で必要なのか、あるいは周囲の間質で必要なのかについては明らかではない。Doug Hanahanの研究チームは、ソニックヘッジホッグ(SHH)の共受容体であるSMOの遺伝子を膵管に特異的に欠損させて、この問題を明らかにしようとした。

Nolan-Stevauxらは、活性化型KRAS(lox–stop–lox(LSL)-KrasG12D)およびヘテロTrp53Trp53Flox)のコンディショナルな系と膵臓を標的としたCre組み換え酵素(p48Cre)を使う、確立したPDACマウスモデルを用いた。彼らまず、p48Cre/+; LSL-KrasG12D/+; Trp53Flox/+(PDAC)マウスにおいて、flox化されることで機能喪失するSmoのアリルがヘテロとホモのマウスを作製した(それぞれ、PDAC SmoF/+およびPDAC SmoF/Fマウスと記す)。そして、PDC SmoF/Fマウスの膵管ではSMO mRNAやタンパク質が欠失しているが、周囲の間質では欠失していないことを確認した。膵臓の発生は正常であり、膵上皮内腫瘍性病変(PanIN)やPDACの形成も両方のマウスにおいて同様であった。腫瘍総重量はPDAC SmoF/+マウスとPDAC SmoF/Fマウスで有意な差はなく、Smoの欠失はこれらのマウスの生存に有利には働かなかった。

PDAC SmoF/Fマウスの膵内に少数のSMO陽性細胞が存在し続けて、腫瘍形成を促進した可能性も考えられるため、Nolan-Stevauxらは、Smoのアリルが組み換えを起こさなかったPDAC SmoF/Fマウス由来の細胞株(4.2 NR細胞)を作製し、Creを発現するアデノウイルスを用いてin vitroで組み換えを誘導した(4.2 R細胞)。これらの2種類の細胞株を同所性にヌードマウスに注入したが、腫瘍重量や形態に違いは認められず、SMOはPDAC細胞の腫瘍形成に必要でないことが示唆された。

次にNolan-Stevauxらは、正常ではSHH-SMOシグナルの下流で活性化されるGLI転写プログラムが、PDAC SmoF/Fマウスの膵管において活性化されているか調べたところ、驚くべきことに、SMOが存在しなくてもGli1Ptch1などのGLIの標的遺伝子が発現していることが判明した。さらにリコンビナントSHHは、ヒトPDAC細胞株におけるGLIリポーターからの転写には影響を与えず、これらの細胞は、SHH-SMO非依存的なメカニズムを使ってGLIによる転写を活性化している可能性が高いことが示された。

それでは、PDAC細胞はどのようにしてGli1Ptch1の転写を活性化するのだろう?4.2 NR細胞と4.2 R細胞を用いた実験から、SMO非存在下において、TGFβ1とKRASがともにGli1Ptch1の転写を制御しうることが示された。また、活性化型KRASを発現するマウスやヒトのPDAC細胞において、RNA干渉によってGLI1の発現を抑制すると、これらの細胞のアポトーシスが増強し、軟寒天でのコロニー形成が抑制された。このことから、GLIの転写プログラムは、生存やKRASを介する形質転換に必要であることが示唆された。

以上の結果と既に発表されている報告を考え合わせると、PDACの腫瘍間質においては、通常のパラクラインによるSHH-SMOシグナルが活性化されている一方で、PDAC細胞においては、KRASによってGLI標的遺伝子の発現が誘導されるという、通常とは異なる機構が働いているというモデルが示唆される。これらの経路を阻害することにより、PDACのユニークな治療につながるかもしれない。

doi:10.1038/nrc2609

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