Research Highlights

幼稚な行動はやめて

Nature Reviews Cancer

2008年12月1日

Stop acting so immature

p53およびPTENの両経路については、グリオーマ形成に関与していることが既にわかっている。これを考慮してRon DePinhoらは、中枢神経系(CNS)特異的にこの両遺伝子が欠失したマウスを作製した。ヒトのPTEN変異は通常、高悪性度の原発性多型性神経膠芽腫(GBM)にみられるが、TP53変異は悪性度の低い腫瘍からの進行後に生じる二次性GBMに一般的である。そのため、PtenTrp53も欠失したマウスCNSの腫瘍が、ヒト原発性GBMと驚くほど酷似していることがわかり、Ron DePinhoらはやや驚いている。

CNSにおけるPten欠失は致死変異であることから、Ron DePinhoらは、Pten–/+;Trp53–/–マウスを調べた。その結果、マウス57匹中42匹(73%)に、原発性GBM病変の古典的な臨床、病理学、分子レベルの特徴をもつ高悪性度のグリオーマが認められ、このうち66%が高悪性度退形成アストロサイトーマ、残る34%がGBMに分類された。p53の消失は原発性GBMでは珍しいとされてきたが、ヒト原発性GBMの検体35例分の配列分析を改めて実施したところ、10例にTP53変異が認められ、このうち6例にはさらにPTENの欠失または変異も認められた。この分析結果は、最近のがんゲノムアトラス(The Cancer Genome Atlas)の大規模データと一致している。

Pten–/+;Trp53–/–マウスのGBM腫瘍のどの特徴が、ヒトGBMと似ているのだろうか。PTENは、腫瘍細胞には発現していなかったが、周囲の正常細胞には発現しており、Ptenのヘテロ接合性の消失が7例のうち6例の腫瘍に認められたことは、以前、ヒト原発性GBMでPTENのヘテロ接合性消失が観察されたことと一致している。ヒトGBMの腫瘍内は形態学的、細胞系譜的に不均一であり、おそらくは未熟な発生状態になっていることを反映している。このことを裏付けるように、Pten–/+;Trp53–/–マウスのすべての腫瘍には、神経幹細胞(NSC)マーカーが発現し、腫瘍神経球が生じていた。Pten–/–;Trp53–/–マウスの初代NSCを培養すると、PtenまたはTrp53のいずれかのみ欠失しているNSCと比較して、増殖能および自己再生能が高く、分化能が有意に低いことがわかった。

Pten–/–;Trp53–/–NSCは、なぜ分化することができないのだろうか。トランスクリプトームのプロファイリングを利用したプロモーター分析と、がんゲノムアトラスのデータベースから、Pten–/–;Trp53–/–NSC、およびヒトGBM腫瘍には、MYC結合配列が豊富にあることがわかった。MYCレベルは二重欠失NSCの方が確かに高く、二重欠失NSCとPten–/+;Trp53–/–腫瘍神経球由来の細胞で、短鎖ヘアピンRNAを介してMYCを生理学的レベルまでノックダウンすると、分化能が戻り、自己再生能および増殖能が阻害された。Myc短鎖ヘアピンRNAをもつ腫瘍神経球を注入した易感染性マウス10匹では、9匹が3カ月以上生存できたが、対照マウスは10匹全部が1カ月以内にグリオーマで死亡した。

このように、MYC発現減少によりPten–/+;Trp53–/–腫瘍細胞の分化能が回復すると、腫瘍形成の可能性は低くなる。重要なのは、この細胞は分化の合図にすぐに応じる正常なNSCとは異なることから、ヒトGBMにおける、おそらくMYCの阻害によって分化を取り戻す治療戦略が考えられることである。

doi:10.1038/nrc2546

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