Research Highlights

TGFβのシグナル伝達に新たな仲間

Nature Reviews Cancer

2008年8月1日

TGFβ makes a new friend

 この20年間で、血管新生および脈管形成に関する知見が急速に増大し、臨床的に有用な治療薬の開発を可能にする分子レベルのデータがもたらされるまでになった。これほど功績があるにもかかわらず、個々の血管新生経路がどのように相互作用し、協働しているかについては、いまだに完全な解明には至っていない。このほど、Redondoらは、腫瘍の血管新生の重要な2種のエフェクター、トランスフォーミング増殖因子β(TGFβ)とプロスタグランジンE2 (PGE2)との関係を新たに突き止め、血管新生経路の完全解明に向けて大きく前進した。

Redondoらは、ヒト血管内皮細胞(EC)をPGE2で処理すると、TGFβがそのI型受容体ALK5と結合する際にみられる細胞応答に関連する、リン酸化の増強、核局在化およびSMAD3複合体のDNA結合が起こることに気づいた。さらに詳しく調べるため、ECと抗TGFβ1抗体をインキュベートし、PGE2で処理すると、SMAD3の応答が完全に消失することがわかった。しかも、マトリゲルを使用したin vitroの血管新生アッセイでは、PGE2による処理で内皮の索状構造が増え、ALK5を阻害によりこれが妨げられることが明らかになった。同様に、ALK5は、in vivoのマウス角膜モデルにおいて、VEGFではなくPGE2を介する血管新生に必要であった。以上を総合すると、ALK5は、PGE2による新生血管形成の極めて重要なメディエーターであることがうかがえる。

では、PGE2は、どのようにしてTGFβにシグナルを送るのだろうか。以前の研究から、TGFβの動員および活性化に一部のメタロプロテイナーゼ(MMP)がかかわることが示されている。今回、Redondoらは、メタロプロテイナーゼ阻害因子GM6001で処理するとSMAD3の核移行が弱まることを突き止め、この作用がTGFβ活性化で役割を担っていることが知られているMT1-MMPの阻害によって生じると仮定した。この仮定から、抗MT1-MMP抗体はPGE2を介するSMAD3活性化を妨げると考えられる。また免疫蛍光分析から、PGE2によってMT1-MMPの絶対レベルが増大するのではなく、特定の膜部位での蓄積量が増すことが明らかになった。これまでの研究により、MT1-MMPのクラスター化は、その酵素活性の増大および多タンパク質複合体の形成と関連付けられている。したがってRedondoらは、インテグリンのようなタンパク質との相互作用が、EC膜でのTGFβ活性化に寄与しているのではないかと考えている。

今回の実験により、腫瘍増殖および血管新生の2種類のメディエーター、PGE2とTGFβとの新たなクロストークを特定できた。しかも重要なことに、この新しい経路は今後、抗血管新生療法の有用な標的になるものと思われる。

doi:10.1038/nrc2448

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