Research Highlights

癖になる?

Nature Reviews Cancer

2008年5月1日

Predisposing to behaviour?

タバコが肺癌の原因となる発癌物質であることはよく知られている。しかし、疫学研究は、肺癌発生の家族リスクがあることも示しており、原因に遺伝的素因があることを示唆している。今回3件の全ゲノム相関解析(GWAS)により、遺伝的な差異が喫煙行動およびタバコ関連発癌物質に対する感受性に影響を及ぼしうることがわかった。

肺の腫瘍形成を促す可能性があるものの検知しにくい遺伝子欠損を特定するため、3つの研究グループが300,000個以上の一塩基多型(SNP)を調べ、同時に被験者の喫煙行動も調査した。この中で目につくのは、3グループとも、肺癌発生リスクが染色体15q25のいくつかのSNPと有意に関連するとしていることである。HungとMcKayらは、rs8034191およびrs16969968が原発性肺癌リスクを有意に高め、喫煙期間および喫煙未経験者を考慮しても、推定リスクが変化しないことを明らかにし、両SNPと喫煙は独立の危険因子であると結論づけた。ついでAmosらは、rs8034191、またはもう1つ別のSNP、rs1051730の存在と喫煙が、喫煙未経験者ではなく喫煙経験者(現・元喫煙者)のみにおける独立の危険因子であることを示した。また、Thorgeirsson、Geller、Sulem、Rafnarらは、rs1051730を肺癌リスクとの関係が最も強いSNPと特定し、このSNPが喫煙行動と有意な関係にあることを突き止めた。実際に、rs1051730のコピー1個につき1日に喫煙するタバコが約1本増えており、このSNPの保有者はニコチン依存性が高いことがわかる。

では、染色体15q25にはどのような遺伝子が存在するのだろうか。上記3グループが特定したSNPは約100 kbにわたり、少なくとも6個の遺伝子が存在している。このうちの3個(CHRNA5CHRNA3CHRNB4)は、ニコチンおよびニコチン誘導体と結合するニコチン性アセチルコリン受容体のサブユニットをコードする。以前のデータから、特にCHRNA3の変異がニコチン依存性に影響を及ぼす可能性があることが示唆されており、Thorgeirssonらが報告したrs1051730保有者における喫煙量の増加と矛盾していない。しかし、HungらおよびAmosらの調査では、喫煙行動とこれらのSNPとの間に強い関連性は見つからなかった。ただし、ニコチン性アセチルコリン受容体経路の活性化は、腫瘍増殖および血管新生を助長すると考えられており、このためAmosらおよびHungらは、これらのSNPの存在によってタバコの発癌作用を受けやすくなるとしている。

以上のデータより、これらのSNPが喫煙の開始に影響を及ぼす可能性は低いが、ニコチン依存性を高め、そのためにタバコ関連発癌物質への暴露量が増大しうると考えられる。また、こうしたSNPの存在により、おそらくタバコの発癌作用との間に相乗効果が生じるだろう。これらのSNPの生物学的作用はわかっていないが、ヨーロッパ系の約50%で生じているとみられ、発癌の化学的予防および禁煙戦略への道筋の1つとなるだろう。

doi:10.1038/nrc2383

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