Research Highlights

意外な展開

Nature Reviews Cancer

2002年8月1日

どんなよい話にも裏がある。c-MYCに関する魅惑的な物語も例外ではない。Dean FelsherらはScience 7月5日号で、c-MYCを短時間不活性化すると、細胞の反 応が生の促進から死の促進へと変化することを明らかにした。これはc-MYCを標的と した治療戦略に重要なかかわりがある。

遺伝子の不活性化は癌を治療する賢明な方法に見えるが、これに伴って毒性も高く なりうる。多くの癌遺伝子は正常細胞の増殖にとっても不可欠だからだ。癌遺伝子の 不活性化を短時間にすることによって、毒性の問題は解決できた。しかし、腫瘍はひ き続く癌遺伝子の再活性化で再び増殖するのだろうか。Felsherらは、発現調節の可 能なテトラサイクリンプロモーターの下流につないだc-MYCをマウスリンパ球 で発現させ、この疑問を調べた。

のマウスモデルは最近、骨原性肉腫を誘導することが明らかにされている。

-MYCも未熟な骨芽細胞で発現しているように見える。この骨原性肉腫は、頻 発する転移などの特徴が、ヒト骨原性肉腫と似ている。ドキシサイクリンを投与して c-MYCの発現を止めると腫瘍は退行し、細胞は骨に分化する。

原性肉腫細胞を生体外で培養し、c-MYCの発現を止める影響をさらに解析し た。予想通り、ドキシサイクリン処理により細胞分裂が急速に減少した。しかし、ド キシサイクリンを除去しc-MYCを再活性化しても、細胞分裂は再開しなかった。代わ りに細胞は、c-MYCが誘導する別の反応であるアポトーシスを起こした。

は、アポトーシスは生体内でも起こるのだろうか。原発性腫瘍と骨原性肉腫の両方 を皮下移植したマウスが調べられ、腫瘍がある程度の大きさになった後、ドキシサイ クリンが投与された。予想通り、腫瘍細胞は成熟した骨の細胞である骨細胞に分化し た。10日後にドキシサイクリンを除去しc-MYCを再活性化したところ、14日目までに 多数の細胞が減少した。TUNEL染色で、これがアポトーシスによるものであることが 裏づけられた。腫瘍は再増殖しなかったのだ。

近ほかの報告で、c-MYCに応答して生か死かの決定を下すのは他の遺伝的損傷(ア ポトーシス抑制物質Bcl-xLの変異など)であることが明らかにされ た。したがって、c-MYCが単独で増殖からアポトーシスへ応答を切り替える能力は驚 くべきものであり、細胞の種類によるのかもしれない。あるいは、c-MYCの不活性化 とそれに続く分化が腫瘍細胞の後成的環境を変化させ、c-MYCが再活性化されたとき に増殖反応を起こすことができなくなるのかもしれない、とFelsherらは提案してい る。

えに、c-MYCのような癌遺伝子を一時的に不活性化するという治療戦略は、 効果的かつ毒性も低いかもしれない。これが違う種類の腫瘍、転移性腫瘍、ヒト腫瘍 にも効くかどうかは、なお解決されるべきである。

doi:10.1038/nrc868

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