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Nature Reviews Cancer

2006年2月1日

B細胞悪性腫瘍の決定的な特徴といえば、免疫グロブリンH鎖(IgH)の座位が関与する染色体転座であるが、こうした転座がどのようにして起こり、発ガンの可能性もあるこうした事象がどのような機序により回避されているかについては、ほとんどわかっていない。Almudena RamiroとMila Jankovicらは最新のNature誌で、こうした機序の一部を解明している。

Ramiroらは、マウス初代B細胞にMycとIghとの転座を起こさせ、B細胞活性化時における免疫グロブリンのクラススイッチ(IgMからIgGまたはIgAへなど)に不可欠な酵素、活性化誘導シチジンデアミナーゼ(AID)の機能を検討した。AIDがMyc-Igh転座の蓄積に不可欠であることは以前からわかっているが、それに関わる機序は不明である。Ramiroらは、Aid-/-細胞に生じる転座の数と、Aidをもつレトロウイルス構造物を取り込ませたAid-/-細胞に生じる転座の数とを比較した。

B細胞が活性化すると、AID過剰発現細胞にはMyc-Igh転座が蓄積したが、Aid -/-細胞には何ら作用が認められなかった。免疫グロブリンスイッチ領域内での二本鎖切断の回復には、DNA修復の非相同性末端結合(NHEJ)経路に関与するタンパク質が必要であることは知られているが、Ramiroらは、Myc-Igh転座の発生にNHEJ経路は必要ないことを突き止めた。

免疫グロブリンのクラススイッチに必要なDNA損傷トランスデューサーATMが消失すると、AID発現細胞のMyc-Igh転座の頻度が高くなった。しかも、腫瘍抑制因子p53 (ATMの下流標的因子)がないかまたはハプロ不全であれば、Myc-Igh転座のレベルが高まった。MYCの異所性発現はARF-p53腫瘍抑制因子の経路を活性化することがわかっているため、Ramiroらはさらに、ARFヌルB細胞でMyc-Igh転座が増大していないかどうかを調べ、そうであることを突き止めた。以上のことから、Ramiroらは、ATM、p53およびARFが、Myc-Igh転座を検知してこれが起こらないようにする機序の一部であると結論づけている。ATMの消失はゲノム不安定性を誘導するが、Ramiroらは、ゲノム不安定性がMyc-Igh転座の形成を助長することを示す証拠はないとしている。

Ramiroらは、自らの所見を説明するためのモデルを提案している。クラススイッチするには、AIDによるDNA二本鎖切断の形成が必要で、この切断は NHEJ系と、DNA二本鎖切断の検知および修復に関与するほかの多数のタンパク質とによって正確に修復される。そこにATMは含まれるが、p53は含まれない。回復していない損傷があれば、ATM活性化によるp53応答が誘導される。ARF経路を活性化するのが、この応答を免れてNHEJ依存性転座を起こす細胞であり、結果としてp53が再び活性化する。したがって、p53の変異または消失は、AIDによる転座を助長し、リンパ腫の発生に早い段階で寄与する可能性がある。

doi:10.1038/nrc1814

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