Research Highlights

DNA損傷を最小限に

Nature Reviews Cancer

2002年10月1日

2000年に行われた米国立癌研究所の抗癌剤スクリーニングで、癌関連遺伝子の発現と 化学療法剤に対する抵抗性との相関が最も強く見られたのは、BCL-XLだっ た。Cell誌の10月4日号にBenjamin Devermanらは、BCL-XLがシスプラチンなどの抗癌剤により引き起こされるアポトーシスに抵抗する機能をもつ証拠を提出している。

NAに損傷を与える抗癌剤が治療に有効なのは、その治療が腫瘍細胞のアポトーシス を誘導するためである。アポトーシスにおいて中心的な役割を担うのはBCL2ファミリー のタンパク質なので、Devermanらはこのファミリーのタンパク質、特 にBCL-XLに焦点を合わせて研究した。BCL-XLタンパク質は、 BCL2ファミリーのうちアポトーシスの前段階に作用するタンパク質、すなわち、BH3 領域のみをもつタンパク質群の活性を阻害してアポトーシスを抑制する。Devermanらは、アポトーシス経路を研究するため、シスプラチン誘導性アポトーシスに感受性 のTP53遺伝子欠損、RB遺伝子欠損骨肉腫細胞(SAOS-2)を用いることにした。なぜなら、ほとんどの腫瘍ではTP53遺伝子とRB遺伝子の両方 が変異を起こしているか、あるいは機能的に不活性化されているからである。

は、SAOS-2細胞をシスプラチンで処理したとき、BCL2とBCL-XLにどんな影響がもたらされたのだろうか。細胞をシスプラチンで処理しても、BCL2には影響は見られなかった。ところが、BCL-XLは、2つの保存部位の52位と66位の アスパラギンのところで脱アミド反応(アスパラギンがアスパラギン酸とイソアスパ ラギン酸の混合物に変換される反応)によって修飾されることがわかった。この脱アミド反応は、細胞死が起こる時期と関連していた。野生型のBCL-XLタンパク質とは異なり、構成的に脱アミドされたBCL-XLタンパク質はBH3領域のみをもつタンパク質群に結合できなかった。このことが、SAOS-2細胞 でBCL-XLがシスプラチン誘導性アポトーシスを阻止できないことの一因 になっているのかもしれない。

AOS-2細胞でRB発現を誘導すると、BCL-XLタンパク質の脱アミド 反応が抑制され、細胞がDNA損傷誘導性のアポトーシスに抵抗性になった。さらに、BCL-XLアンチセンス法を適用すると、RBを発現するSAOS-2細胞が シスプラチンに感受性になった。Devermanらは、SAOS-2繊維芽細胞 はBCL-XL活性に依存してシスプラチン抵抗性になるという結論を下した。

evermanらは現在、脱アミド反応を調節する機構の解明に専念している。BCL2ファミ リーのタンパク質がDNA損傷を引き起こす薬剤に応答するしくみと、これらのタンパ ク質が薬剤抵抗性に果たす役割をもっとよく理解することは、新しい治療法の開発に 役立つだろう。

doi:10.1038/nrc931

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