Research Highlights

共通経路で衝突する2つの世界

Nature Reviews Cancer

2002年6月1日

ファンコニ貧血(FA)と血管拡張性失調症(AT)は臨床的には別個の癌感受性症候群 で、DNA修復機能に欠陥がある。この2つの疾患で破壊されている成分は、別々の DNA修復経路で機能しているとされてきた。ところが今回、Toshiyasu Taniguchiらに よる新しい研究は、そうではないことを示した。以前にFAに関与しているとされてい たタンパク質が、AT経路でも機能していたのである。

A細胞とAT細胞は、それぞれマイトマイシンC(MMC)や電離放射線(IR)などの DNA架橋要因に対して高度感受性を示す。AT細胞は、IRに応答してS期とG2/M期の細胞 周期チェックポイントを編成するのに必要なATMというプロテインキナーゼに変異が ある。FA細胞は、共通の経路で作用する複数のFANCタンパク質のうちの1つに欠損が ある。5種のFANCタンパク質(A、C、E、F、G)の核内複合体は、MMCに応答し、 BRCA1癌抑制タンパク質と協同でFANCD2タンパク質へのユビキチン分子の付加(モノ ユビキチン化)を引き起こす働きをする。ユビキチンによる修飾が起こると、 FANCD2はDNA損傷部位に集まるとされる核内フォーカスに局在化する。FANCタンパク 質のどれかを欠く細胞、またはモノユビキチン化されないFANCD2変異タンパク質をも つ細胞は、MMCに誘導される損傷を効率的に修復することができない。

aniguchiらは今回、FANCD2を欠く細胞には、AT細胞と共通点があることを見いだし ている。すなわち、他のFA細胞とは異なり、FANCD2を欠く細胞はIR誘導性のS期のチ ェックポイントに欠損がある。続いてTaniguchiらは、FANCD2はIRに応答してリン酸 化されるが、MMC応答ではリン酸化されないことと、このリン酸化を担うキナーゼは ATMであることを示している。保存されているS222残基が、最も重要な生体内リン酸 化部位と思われる。そして、S222残基をもたないFANCD2変異タンパク質は、FANCD2を 欠く細胞ではS期のチェックポイントのIR誘導性活性化を回復させることができな い。おもしろいことに、IRに続いて起こるFANCD2のリン酸化は、他のFAタンパク質や タンパク質のモノユビキチン化部位(K651)の存在を必要としない。この研究結果か ら、FANCD2はIRに応答してモノユビキチン化されて核内フォーカスに局在化するにも かかわらず、モノユビキチン化はIRに応答したFANCD2の役割に必要だとは考えられな い。

のように2つの別個のDNA修復経路がFANCD2タンパク質のところで交錯し、別々の翻 訳後修飾過程を通してFANCD2の機能を調節することができる。このモデルは、 FANCD2遺伝子に変異をもつ患者はAT患者や他のFANC遺伝子に欠損がある患者よりも重 篤な臨床的表現型を示すようだというTaniguchiらによる予備的観察結果とよく適合 する。このFAとATの興奮させられる新しいつながりをたどる今後の研究は、疑いなく その2つの型のDNA損傷においてFANCD2のユビキチン化とリン酸化が機能するしくみの 解明に向けられるだろう。

doi:10.1038/nrc832

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