Research Highlights

もれ穴をふさぐ

Nature Reviews Cancer

2003年9月1日

正常な血管と比べると、腫瘍の血管系はきわめて漏出しやすく、この性質が腫瘍の進 行を助長すると考えられている。血漿タンパク質が周囲の組織に入り込みやすくなり、腫瘍増殖に必要な栄養分に富む環境をもたらすからである。今回Cancer Cell 誌の7月号にWilliam Sessaらが寄せた報告によれば、腫瘍の血管の漏出部分をふさぐと、マウスの腫瘍増殖が実際に阻止されることがわかった。

Sessa らのこれまでの実験結果によれば、カベオリン‐1(caveolin-1)タンパク質の骨格領域に細胞の内在化配列を連結して作製したカブトラチン(cavtratin)という融合ペプチドは、炎症モデルマウスの血管の透過性を減少させる。カベオリン‐1はカベオラという細胞内構造物をつくる主要な膜タンパク質で、内皮細胞の一酸化窒素合成酵素(endothelial nitric-oxide synthase, eNOSと略す)の調節に関与するとされている。eNOSは血管の再構築と血管新生を制御しており、血管内皮細胞増殖因子(vascular endothelial growth factor, VEGF)によって活性化される。Sessaらは最初に、VEGFを介した血管漏出に対するカブトラチンの影響を調べることにした。そこでマウスに VEGFを皮内注射した後、アルブミンと血漿タンパク質の漏出の指標となるエバンスブルー色素の血管外溢出を測定した。カブトラチンで前処理したマウスは、対照のAP-CAV-Xというペプチドで前処理した対照マウスに比較してエバンスブルー色素の溢出が著しく減少した。カブトラチンがVEGFを介した血管透過性を減少させることがわかったが、カブトラチンは腫瘍血管系の透過性にも類似の影響を与えるのだろうか。

ルイス肺癌腫(LLC)のマウスをカブトラチンまたは AP-CAV-Xペプチドで処理して観察したところ、肺の血管系の透過性に影響を与えずに腫瘍血管系の漏出を妨げたのは、カブトラチンだけだった。カブトラチンの影響は腫瘍に特異的だったので、SessaらはLLCモデルにおける腫瘍の進行経過を追跡し、カブトラチンを毎日投与すると腫瘍の大きさが有意に減少することを見いだした。カブトラチンは腫瘍由来のNOS活性を低下させ、腫瘍内皮細胞に共通に見られる血小板内皮細胞接着分子−1(PECAM-1)という細胞標識と、リンパ血管系の細胞標識であるFLT4というVEGF受容体の発現を有意に減少させたが、AP-CAV-Xペプチドにこのような作用は見られなかった。腫瘍部位を組織学的に調べたところ、カブトラチン処理マウスの腫瘍には広範な壊死部分が確認され、カブトラチンは腫瘍の非壊死領域でアポトーシスを起こす細胞の数を増加させた。したがって、カブトラチンはeNOS活性を低下させ、腫瘍の透過性を減少させてアポトーシスを引き起こす。

カブトラチンが血管新生、内皮細胞の増殖および腫瘍細胞の増殖に直接影響を及ぼす可能性は否定されたので、Sessaらは血管系の漏出におけるeNOSの役割をさらに調べた。Sessaらは野生型マウスとeNOS-/-マウスに生じたLLC腫瘍を比較し、eNOS-/-マウスの腫瘍は野生型マウスの腫瘍よりもエバ ンスブルー色素の透過性が低いことを示した。野生型マウスにカブトラチンを投与すると、eNOS-/-マウスのLLC腫瘍に見られるのと同程度に腫瘍の色 素透過性が減少した。さらに、野生型マウスと比較して

NOS-/- マウスでは血管系の透過性、腫瘍増殖およびカブトラチン感受性が減少していることは、eNOSがカブトラチンの主要標的分子だとする証拠を追加したといえる。内皮細胞をカブトラチンで処理してもVEGF受容体FLK1のVEGF誘導性自己リン酸化やc-SRCタンパク質のリン酸化は阻止されなかったので、 eNOS遺伝子の消失はカブトラチンによるeNOSの阻害に匹敵する。

Sessaらの研究結果から、カベオリン‐1は、腫瘍の微小血管系に特異的に影響を及ぼすので、抗腫瘍治療の新規標的分子になると考えられる。

doi:10.1038/nrc1131

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