Research Highlights

活動的な状態

Nature Reviews Cancer

2003年11月1日

癌細胞で多数の情報伝達経路を調節している1つのタンパク質を阻害できれば、魅力的な癌治療法になる。HSP90タンパク質は数多くの重要な情報伝達タンパク質の機能と安定性を調節する分子シャペロンで、腫瘍細胞の存続に関係するとされてきた。問題なのは、HSP90が正常細胞にも存在することで、 HSP90を阻害する17-AAG(17-allylaminogeldanamycin)という薬剤の第I相臨床試験を開始したとき、許容できない毒性が現れる懸念があった。ところが、17-AAGは正常細胞をあまり攻撃しないらしく、今回Adeela Kamalらがその理由を説明している。それによると、この薬剤がHSP90に結合するのは、複数のHSP90からなるシャペロン複合体を形成して活性化された状態にあるときだけである。

 Kamalらはまず、17-AAGが正常細胞よりも腫瘍細胞(BT474乳癌細胞)の HSP90に対して高い親和性をもつことを示した。腫瘍細胞のHSP90に対するIC50値は6nMで、正常細胞のHSP90に対するIC50値は 600nMだった。17-AAGはHSP90のATP結合部位を特異的に阻害するが、ATPの結合親和性は腫瘍細胞系の方が10倍高かった。17-AAG は、ERBB2タンパク質を過剰に発現する癌細胞系のHSP90に対しても高親和性を示した。

 正常細胞と腫瘍細胞とでHSP90がどう違うのかを理解するため、Kamalらはこれらの細胞系で、複数のHSP90からなるシャペロン複合体に必須の構成要素である2種のタンパク質(P23とHOP)の量を調べた。免疫沈降法を用いて比較したところ、腫瘍細胞では正常細胞よりも多量のHSP90がP23およびHOPとの複合体を形成して存在していた。さらに、腫瘍細胞のHSP90は、正常細胞由来のHSP90よりもATPアーゼ活性が顕著に高かった。

 では、17-AAGが腫瘍細胞のHSP90に対して高い親和性をもつのはなぜだろう。複数のHSP90が共同でシャペロンをつくるからだろうか。精製したHSP90とHSP70、HSP40、P23およびHOPを用いて試験管内でシャペロン複合体を再構成したところ、17-AAGの親和性がHSP90単独の場合の600nMから複合体の場合には12nMまで増加した。試験管内の再現実験での観察結果は、ヒトの乳癌と結腸癌患者由来の材料でも裏づけられた。癌細胞には活性化されたHSP90が必要なことから、複数のHSP90からなるこのシャペロン複合体は、癌の分子標的治療に使える可能性が大いにある、またとない標的になるだろう、とKamalらは述べている。

doi:10.1038/nrc1223

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