Research Highlights

再構成の糸口

Nature Reviews Cancer

2004年5月1日

これまで、乳癌研究の重要かつ困難な課題のひとつに、この癌の実モデル作製があった。Bob Weinbergらは現在、マウスにヒト乳腺上皮を再構成する新しい方法を報告し、乳房の腫瘍化における基質の重要性を強調している。

Weinberg らは、ヒト乳腺基質をマウス乳腺脂肪体に樹立すれば、ヒト乳腺上皮細胞(MECs)の増殖に適した環境になるという仮説をたてた。これを行うため、免疫力低下マウスの乳腺脂肪体に、照射および非照射の乳腺基質線維芽細胞を混合して注入した。照射を行うと、線維芽細胞のプロテアーゼ、基質タンパク質および増殖因子の発現が活性化されることは、すでにわかっている。その後、乳房縮小術から得た組織学的に正常なヒト組織から、ヒト乳腺線維芽細胞およびヒト MECsの混合物を調製して、ヒト化基質脂肪体に注入したところ、腺房構造、導管構造および小葉構造をもったヒト上皮増殖物が発生した。Weinberg らは、このヒト乳腺組織が妊娠中に満足に機能している(すなわち、細胞は組織学的に正常であり、脂質を合成してヒト腺房の管腔へ分泌している)ことを確認している。

一次ヒト乳腺線維芽細胞を加えずに、ヒト化基質脂肪体に乳房形成術を施行した患者から単離したヒトMEC調製物を導入すると、試料の30%に過形成性導管増殖が認められた。このことから、一次ヒト線維芽細胞は、過形成を抑制することがわかる。

乳腺基質細胞が合成する2つの増殖因子は、ヒト乳癌細胞によって過剰発現し、このうち肝細胞増殖因子は、乳腺上皮の過剰増殖を引き起こし、トランスフォーミング増殖因子- 1は、基質細胞の増殖を阻害して血管新生を誘発する。Weinbergらは、この2つの因子のいずれかをヒト化基質脂肪体に異所的に発現させると、乳房形成術より得た試料から単離して注入したヒトMEC細胞の一部が、浸潤性の低分化癌になることを確認している。意外にも、同一患者の乳房形成術を施行した組織の別領域から採取したMECsを用いると、癌は形成されなかった。

Weinbergらは、乳房縮小術のMECsが、ドナーの乳腺から取り出した時点で、すでに異常化した細胞を含んでいたに違いないこと(だだし、このことは組織学的に検知不可能であった)、上記細胞がその後、変化した基質環境で増殖したことを示唆している。このモデルは、ヒト乳癌の成因を研究する新しい方法をもたらすものである。

doi:10.1038/nrc1346

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