Research Highlights

侵入を抑える

Nature Reviews Cancer

2004年7月1日

プロテアーゼ活性化は、腫瘍進行の重要な要素であり、マトリックスメタロプロテイナーゼなどの酵素が、治療ターゲットとして研究されてきた。 Douglas HanahanとMatthew Bogyoらは現在、細胞内および細胞外プロテアーゼの別のファミリー(カテプシン類)も、腫瘍血管新生および浸潤増殖に必要であり、カテプシン特異的阻害化学物質により、上記のプロセスが有意に抑制されることを明らかにしている。

Hanahanらは腫瘍進行に関与している遺伝子を特定するため、RIP1- Tag2マウスを用い、種々段階にある腫瘍の遺伝子発現分析を実施した。ここで用いたマウスは、膵 -島細胞にSV40 T抗原癌遺伝子がトランスジェニック発現するため、膵癌が発生する。Hanahanらは、(セリン、システインおよびアスパルチル型の各プロテアーゼを包含するパパインプロテアーゼのスーパーファミリーに属する)一連のカテプシンをコードする遺伝子は、腫瘍の進行に応じてアップレギュレートされることに気付いた。システインのカテプシン遺伝子6種(CTSB, CTSC, CTSH, CTSL, CTSSおよびCTSZ)の正常な島細胞における発現レベルは低く、さまざまな形でのアップレギュレートは、高増殖性および血管新生性高増殖性の島前駆細胞で始まることもあれば、腫瘍のみで始まることもあった。

活性型カテプシンと結合する蛍光低分子をプローブとして用い、膵切片を分析したところ、正常膵にはin vivoでの酵素活性が検知されなかったが、血管新生性高増殖性島細胞、腫瘍、および浸潤腫瘍の最前部にははっきりと認められた。

上記カテプシンは、腫瘍進行に必要なのだろうか。Hanahanらが、システインのカテプシン活性に対して広域スペクトルの細胞膜透過性阻害物質を連日投与したところ、血管新生性高増殖性島細胞数が49%、増殖途上の腫瘍体積が67%減少し、進行性腫瘍のあるマウスの生存期間に(腫瘍退縮ではなく、疾患の安定による)延長をみた。

充実性腫瘍が定着したマウスに、この阻害物質を投与したところ、特に腫瘍中心でこの腫瘍への血管供給が途絶えた。Hanahanらは、血管新生がいったん確立すると、カテプシンが新生血管の出芽を促進するのではないかと考えている。ただし、カテプシン活性を阻害しても、高増殖性島細胞への血液供給が必ずしも抑えられたわけではなく、実際に血液供給を受けている限られた上記島細胞が、正常な血管網を形成することから、カテプシン非依存性経路によっても血管新生が促進されることになる。

しかし、カテプシンは腫瘍進行期間における血管新生に寄与しているだけではない。 Hanahanらはまた、カテプシン阻害物質が腫瘍形成性 -島細胞の増殖能を低下させることも確認している。この機序は不明であるが、Hanahanらは、システインのカテプシンが細胞増殖も調節しているとの結論を下している。

カテプシンが浸潤腫瘍の縁に局在していたことから、このプロテアーゼには周囲組織への浸潤をも調節している可能性がある。Hanahanらは、浸潤能のマーカーとして、E-カドヘリン(浸潤腫瘍でダウンレギュレートされるという特徴を有する接着分子)のレベルを検討し、カテプシン阻害物質を投与したマウスでは、E-カドヘリンがダウンレギュレートされている膵腫瘍が対照より少なく、このことが、浸潤性の大きい腫瘍および小さい腫瘍いずれの減少にも一致することを突き止めた。Hanahanらは、カテプシンのタンパク質分解によるE-カドヘリン機能の抑制が、腫瘍浸潤に重要なのではないかと考えている。

とりわけ、Hanahanらは、別の腫瘍モデルマウス(ヒトパピローマウイルスが誘発する子宮頚発癌)を用い、システインのカテプシンのin vivo活性が同じくアップレギュレートされることを明らかにした。カテプシン阻害物質の投与によって膵に神経内分泌系腫瘍を有するRIP1-Tag2マウスに治療効果がみられ、毒性が認められなかったことを考えると、システインのカテプシンを治療ターゲットとすれば、病期に関係なく充実性腫瘍の治療法として有望になるものと思われる。

doi:10.1038/nrc1396

「レビューハイライト」記事一覧へ戻る

プライバシーマーク制度