Research Highlights

隣人らと知り合う

Nature Reviews Cancer

2004年9月1日

乳癌細胞の挙動は、間質細胞をはじめとする近隣の細胞の影響を強く受ける。しかし、これに寄与する細胞の種類が、周囲組織にどれほどあるかはよくわかっていない。最新号のCancer Cellには、乳腺組織の細胞は種類を問わず、癌進行時に遺伝子発現が変化することを示す証拠が掲載されており、その成分ひとつひとつが乳癌発達に寄与していることが明らかになった。

Kornelia Polyakらは、正常乳腺、非浸潤性乳管癌 (DCIS;上皮内癌)および浸潤乳癌の細胞における遺伝子発現について検討した。まず、細胞種特異的なマーカーの抗体に結合する磁気ビーズを用いて、様々な細胞成分 (上皮細胞、筋線維芽細胞と筋上皮細胞および間質細胞) を類別した。

Polyak らは次に、連続的遺伝子発現解析(SAGE)法を用い、細胞の種類別に転写プロフィールを得た。各細胞集団について、ほかのどの種類の細胞よりも多く発現する遺伝子群を明らかにした。さらに、このデータに基づき、クラスタリングアルゴリズムを用いて、腫瘍の進行段階が異なる同じ種類の細胞間における転写プロフィールの関係を明らかにした。これにより、各種類の細胞について、正常組織からDCISを経て最終的に浸潤癌となる過程で遺伝子発現の変化が進行することがわかった。これは、(上皮癌細胞そのものはもちろん)乳腺の細胞はどの種類も、癌の進行時に分子変化することを示す有力な証拠となる。

DCISおよび浸潤癌の間質細胞をはじめとする近隣の種々細胞においてアップレギュレートされる遺伝子の多くは、分泌分子および受容体タンパク質をコードすることがわかった。これらには数種類のプロテアーゼおよびプロテアーゼ阻害因子があり、マトリックスリモデリングなど遊走および浸潤を助長するプロセスを経て癌の進行に寄与する上で上記の種々細胞が担う、一般に了解済みの役割と一致している。しかし、こうした細胞が癌細胞のシグナル伝達にも関与していることを示す最近の研究を裏付けるように、アップレギュレートされた遺伝子は、かなりの割合でケモカイン、インターロイキン、増殖因子受容体など、シグナル伝達機能をもつタンパク質をコードしていた。

Polyakらはこれを踏まえ、筋線維芽細胞および筋上皮細胞の癌組織でそれぞれアップレギュレートされるシグナル伝達分子(CXCL12およびCXCL14)の役割を詳しく検討した。両ケモカインはいずれもin vitroで、乳癌細胞の増殖、遊走および浸潤を促進した。また、Polyakらは、両ケモカインの上皮細胞での受容体発現レベルは、DCISや正常組織よりも浸潤癌の方が、高いことを突き止めた。さらに、筋上皮層に隣接する上皮細胞は、in vivoでの増殖速度が大きいことが明らかになった。すなわち、筋上皮細胞および筋線維芽細胞は、腫瘍形成のいくつかの段階にとって重要なパラ分泌シグナルを発している。

癌細胞を取り巻く細胞に異なった形で発現する遺伝子をさらに検討すれば、ほかにも乳癌を進展させる分子変化の糸口が見つかるはずである。また、こうした変化の正体を明らかにすることで、癌細胞そのものだけでなく、間質細胞および間葉系細胞を標的にした治療戦略を考案する機会が得られるものと思われる。

doi:10.1038/nrc1437

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