Research Highlights

癌の広がりを引き起こす

Nature Reviews Cancer

2004年12月1日

充実性腫瘍は、自らの範囲を超えて身体の別の部位に転移する方法を探している。これは、血管新生およびリンパ管新生というプロセスを経て血管およびリンパ管の形成を促進することによって行われている。血管新生を引き起こす機序は比較的よく知られているが、リンパ管新生を制御する機序についてわかっていることは少ない。Yihai CaoらはCancer Cellで現在、血小板由来増殖因子(PDGF)-BBおよびその受容体チロシンキナーゼPDGFRが、リンパ管新生およびリンパ性転移を促進することを報告している。

Yihai Caoらは、リンパ性転移能の高い癌組織における発現レベルが高いPDGF-BBのリンパ管新生における役割を検討した。マウス角膜モデルおよびリンパ管特異的マーカーを用い、PDGF-BBを注入すると多数のリンパ管新生が起こることを示した (画像参照。血管が赤、リンパ管が青に染色されている)。また、PDGF-AAおよびPDGF-ABも、このモデルのリンパ管新生を引き起こすことが突き止められたが、PDGF-AAによって生じるリンパ管はPDGF-ABおよびPDGF-BBによるものほど多くはなかった。PDGF-AAとは異なり、 PDGF-ABもPDGF-BBも受容体チロシンキナーゼPDGFR と相互作用しており、リンパ管新生を引き起こすシグナルを伝達する上で、この受容体が重要な役割を担っていることがわかる。リンパ管内皮細胞(LEC)を単離して検討したところ、リン酸化SRC、ERK1/2およびAKTの値もPDGF-BBに刺激されて上昇しており、細胞内経路も活性化されていることが明らかになった。

しかし、このシグナルは直接的なものか、それともリンパ管新生に関与することがわかっている血管内皮増殖因子(VEGFC/D)?VEGFR3系を活性化するものか。VEGFC/DまたはVEGFR3を阻害しても、PDGF-BBが誘発するリンパ管新生が妨げられることはなかったため、このシグナルの伝達にはVEGFC/D?VEGFR3系が介在していないことがわかる。

すなわち、PDGF-BBはLECに直接作用しているようであり、Yihai Caoらはこのことを検証するため、ヒト、マウスおよびラットからLECを単離した。その結果、PDGF-BBがLECの遊走を刺激すること、これが VEGFC/DおよびVEGFR3阻害因子ではなく、PDGFR阻害因子のイマチニブ(Glivec)によって阻害されることが明らかになった。

Yihai Caoらは次に、腫瘍増殖に対するPDGF-BB発現の作用を検討した。PDGF-BBを発現する腫瘍細胞をマウスに注入したところ、腫瘍増殖の速度が対照の腫瘍よりも速いことがわかった。この腫瘍はまた、リンパ管の密度も高かった。

Yihai Caoらは、腫瘍のリンパ管新生におけるPDGF-BBの役割をさらに明らかにするため、マウス角膜腫瘍モデルを作製した。腫瘍組織を角膜マイクロポケットに注入したところ、腫瘍増殖および血管新生が起こった。PDGF-BBを発現する腫瘍では、野生型腫瘍よりも多数の血管が無秩序に存在し、無秩序でもれのあるリンパ管が萌芽していた。

このようにPDGF-BBは腫瘍リンパ管新生を引き起こすが、リンパ性転移も引き起こすのだろうか。マウスには皮下T241腫瘍の成長がみられ、Yihai Caoらはこの原発腫瘍を摘出して、腋窩リンパ節に転移病変が発生するかどうかを検討した。PDGF-BBを発現する腫瘍をもつ動物のほとんどには確かに転移病変が現れ、リンパ節には浸潤腫瘍細胞が認められた。これは、野生型腫瘍をもつマウスのリンパ節の約20倍であった。そこで、腫瘍負荷が減少するかどうかをみるため、腫瘍マウスをイマチニブで治療した。すると、PDGF-BBを発現する腫瘍の重量および容積が減少し、リンパ管および血管の数も減少した。

以上のことから、腫瘍細胞が発現するPDGF-BBはLECが発現するPDGFRに直接作用し、リンパ管新生およびリンパ系を通じた転移を引き起こしているものと思われる。選択的PDGFR阻害因子であるイマチニブが、腫瘍負荷およびリンパ性転移の低減に有効と見られる事実は、充実性腫瘍の治療法として有望な兆候であり、さらに検討を重ねる必要がある。

doi:10.1038/nrc1512

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