Research Highlights

抑制的リンク

Nature Reviews Cancer

2005年8月1日

遺伝子の転写調節は、クロマチンの構造を修飾などするいくつかのタンパク質の協奏的作用に依存している。Jan-Hermen Dannenberg、Gregory David、Ron DePinhoらは、遺伝学的および生化学的な方法と、コンピュータを用いた方法とを組み合わせ、正常細胞および新生細胞の双方でコリプレッサー mSIN3Aによって調節される転写ネットワークを調べた。

mSIN3Aは、ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)および無数の転写因子と相互作用して、さまざまなシグナル伝達経路および生物学的過程を調節している。Dannenbergらは、このタンパク質の機能をさらに知るため、条件的mSin3Aノックアウト対立遺伝子をもち、そこへin vivoではCre組換え酵素を発現するマウスとの交配時に、in vitroではCreをコードするレトロウイルスへの曝露時にこの遺伝子を欠失するLox-P部位(mSin3AL)を埋め込んだマウスを作製した。

mSin3Aヌルマウスは胚致死性であることから、mSIN3Aが正常発生にきわめて重要な機能をもっていることがわかる。早期致死によりmSIN3Aの機能を綿密に分析できなかったため、Creをコードするレトロウイルスに曝露してmSIN3Aを欠失させたmSin3AL/L マウス胚線維芽細胞(MEFs)を用いて、さらに研究を行った。mSIN3Aが消失すると不定期DNA合成が始まり、S期チェックポイントの引き金が引かれてG2/M期で増殖が完全に停止し、アポトーシスが増大する(ヌル胚に認められた致死性表現型を説明しうるデータ)。

mSIN3A?HDACがp53腫瘍抑制タンパク質の調節修飾に関与してきたことから、Dannenbergらは、mSIN3Aとp53との同時欠失が、上記細胞表現型に及ぼす影響を評価した。MEFのほか、条件的mSin3A対立遺伝子をもつTrp53-/ -マウス由来のリンパ腫および肉腫を用いて検討したところ、p53が消失しただけでは、mSIN3Aを介する増殖停止もアポトーシスも十分に抑制できないことがわかった。このほか、p53および腫瘍抑制因子の両方が消失すると、致死性の転帰を変えられないことも明らかになった。

では、mSIN3A欠損細胞で増殖停止の引き金を引くのはどの遺伝子だろうか。 Dannenbergらはこの問題に取り組むべく、mSIN3A欠失後の遺伝子発現の変化を経時的にマッピングし、DNA複製、細胞周期調節、アポトーシスおよびミトコンドリア代謝など、きわめて重要な無数の過程に関与する遺伝子が変調していることを明らかにした。また、ナレッジベースのデータベースを用いたmSIN3Aトランスクリプトームのコンピュータ解析からは、Myc?Mad, E2fおよびTrp53の転写ネットワークなど、結節点としてよく知られた遺伝子がいくつか同定された。

mSIN3A 発現の消失によっても、mSIN3A?HDAC複合体の成分の多くに発現の変化がみられ、mSIN3Aが自らの転写と、この複合体のほかの成分の転写とを調節する能力と一致していた。さらに、mSIN3Aには新たに、DNA修復およびペルオキシソーム増殖因子活性化受容体ネットワークとのつながりが認められた。こうした所見は、in silicoプロモーター分析により確認され、さらにクロマチン免疫沈降法によって、シグナル伝達物質および転写活性化因子(STAT)ネットワークとも、ヌクレオソームリモデリング因子FALZともつながりがあることが明らかになった。しかし、Dannenbergらはまた、MYC、E2Fおよびp53の標的遺伝子すべてが、 mSIN3A消失時にアップレギュレートされるわけではないとしており、mSIN3Aが上記標的のサブセットを調節しているに過ぎない可能性および/またはmSIN3Aが生理学的条件または組織の種類に依存して上記遺伝子を調節していることを示している。

このように統合的な取り組みによって、mSIN3Aのさまざまな機能に関する新たな洞察がもたらされ、癌にまつわる経路および過程におけるmSIN3Aの重要性が裏付けられた。この方法が、多タンパク質転写複合体のほかの成分の機能に取り組む場合にも有用であることは間違いない。

doi:10.1038/nrc1681

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