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蛇口を閉める

Nature Reviews Cancer

2005年10月1日

マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)シグナル伝達経路は、増殖をはじめ多くの重要な細胞過程を活性化するが、こうしたシグナルは、一体どうすれば止められるのだろうか。Madhu Macraeらは、エフリン受容体A2 (EPHA2)をコードする遺伝子など、経路の下流遺伝子標的が、癌細胞にはないネガティブフィードバックループをメディエートすると報告している。

Macraeらは、MAPK経路の遺伝子標的を探す中で、MAPKシグナル伝達が活性化されると、受容体チロシンキナーゼEPHA2の発現が5倍アップレギュレートされるという所見を得た。このほか、EPHA2がいったん細胞表面に輸送されると、そのリガンドであるエフリンA1と結合し、MAPKシグナル伝達がダウンレギュレートされることがわかったことも興味深い。これが、MAPKシグナル伝達および細胞増殖をコントロールするネガティブフィードバックループと見られる。

以前の諸研究では、EPHA2受容体チロシンキナーゼが、乳癌の40%など、ヒト癌に共通して過剰発現することが明らかにされている。では、癌細胞はどのようにしてEPHA2を高レベルで発現し、MAPK経路に沿ったシグナル伝達を維持しているのだろうか。乳癌細胞系28系列のパネルについて、EPHA2とそのリガンドを調べたところ、EPHA2を過剰発現する細胞はエフリンA1を発現せず、受容体とそのリガンドの発現は相互に排他的であることが判明した。これは、EPH2A発現のアップレギュレーション以外のMAPKシグナル伝達のもうひとつの結果が、エフリンA1遺伝子EFNA1のダウンレギュレーションであるためである。

Macraeらは、正常な組織構造では、ある種類の細胞がMAPKシグナル伝達をダウンレギュレートしてエフリンA1を発現できる一方、隣接細胞が MAPKシグナル伝達経路を活性化し、受容体のみを発現するのではないかとしている。細胞増殖は、隣接細胞上におけるリガンドと受容体とのこのような相互作用によって抑制されている。腫瘍形成時などでこの構造が失われると、EPHA2を発現する細胞はもはや近隣細胞が産生するエフリンA1とは相互作用せず、MAPKシグナル伝達および増殖が制御できなくなる。

このモデルを裏付けるように、Macraeらは培養細胞を用いて、MAPKシグナル伝達経路がメディエートするERBB形質転換は、エフリンA1の発現によって抑制されることを明らかにした。Macraeらは、エフリンリガンドと受容体との正常な相互作用を維持することが、組織ホメオスタシスの重要な機序であり、乳癌をはじめとするさまざまな癌の発生時には、これが破綻するのではないかと考えている。

doi:10.1038/nrc1722

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