Research Highlights

自己複製関連シグネチャ

Nature Reviews Cancer

2006年8月1日

白血病をはじめ、自己複製する癌に幹細胞集団が存在することは、癌の形成および維持にきわめて重要であり、癌を効果的に治療するには、この細胞を破壊することが必要と考えられる。Andrei KrivtsovとScott Armstrongらは、白血病幹細胞(LSC)と正常造血幹細胞(HSC)の遺伝子発現プロフィールを比較し、LSCが、HSCに典型的に発現する遺伝子の一部のみを活性化することによって、自己複製能を獲得することをつき止めた。

KrivtsovとArmstrongらは、コミットした造血前駆細胞に幹細胞の特性を与えるため、顆粒球マクロファージ前駆細胞 (GMP)に混合白血病(MLL)-AF9融合タンパクを発現させた。致死量以下の照射を実施したマウスにこの細胞を注入したところ、このマウスは急性骨髄性白血病(AML)を発症した。続いてKrivtsovとArmstrongらは、細胞表面マーカーを用いてGMP様の特徴を有する白血病細胞(L-GMPs)を単離し、二次移植したマウスにおける高頻度のAML誘導能に基づいて、この細胞集団にLSCが多いことを明らかにした。培養すると、L-GMPはAML誘導能がない分化した子孫細胞を作ることができ、L-GMPが幹細胞の特性を有することがさらに判明した。

L-GMPが発現する遺伝子は、GMP、正常HSCまたはそれ以外の造血前駆細胞が発現するものとは異なるのだろうか。マイクロアレイを用いた発現プロフィールの分析からは、L-GMPはきわめてGMPに類似しているが、HSC集団にみられる遺伝子グループの発現レベルも高いことが明らかになった。さらに、L-GMPを培養して分化させると、HSC関連遺伝子のほとんどがGMPにみる発現レベルに戻った。自己複製能のある細胞に発現したこの遺伝子363個のグループは、一般的にHSCでの発現レベルが高い遺伝子1,137個のサブセットにすぎない。

さらに、KrivtsovとArmstrongらは、遺伝子発現の階層構造を発見している。MLL-AF9の発現「直」後にGMPに発現したのは、Mef2c (筋細胞エンハンサー因子2C)、Runx2 (ラント関連転写因子2)、Wnt経路遺伝子Tcf4 のほか、Hoxaクラスター遺伝子およびMeis1のように、これまでMLL転座に関わるとされていた一部の遺伝子など、白血病の自己複製能を有する遺伝子363個のサブセットのみであった。連続再播種アッセイからは、Hoxa6、Hoxa7、Hoxa9 またはHoxa10 のレトロウイルス発現がGMPの不死化に十分であることが明らかになった。これに対して、Mef2c の発現は不死化には不十分であったが、L-GMPで短ヘアピンRNAを用いてMef2c を抑制したところ、この遺伝子の発現がマウスのAML発生にきわめて重要であることがわかった。

このマウス白血病の自己複製シグネチャは、ヒトAMLに相当するものだろうか。KrivtsovとArmstrongらは、既報のヒト MLL再構成AMLの発現プロフィールと、そのマウス自己複製関連シグネチャとの間に、大幅な(遺伝子363個のうち91個)重複がみられることをつき止めている。

KrivtsovとArmstrongらが提示したデータからは、LSCとHSCの表現型が異なり、その差がLSCを特異標的にした癌治療法の開発を可能にしていることがわかる。

doi:10.1038/nrc1964

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