Research Highlights

ちりも積もれば山となる

Nature Reviews Cancer

2006年11月1日

J Lambらが考案した「相関マップ」は、さまざまなヒト細胞系を生物活性低分子164種(その多くは既に医療現場で用いられている)で処理して得た、 453ゲノムにまたがる発現プロフィールのデータベースである。このマップは、遺伝子発現プロフィールに含まれる臨床的に重要な無数のデータを解釈するための新しいin silico法をもたらす。

  S Armstrongらは、この相関マップを用いて、グルココルチコイドに耐性を示す急性リンパ芽球性白血病(ALL)細胞内で活動する経路(同疾患の患児における転帰不良の予測因子)を突き止めている。Armstrongらは、ALLの感受性試料および耐性試料から遺伝子発現プロフィールを作成し、相関マップのプロフィールと比較して、「ALL試料の耐性遺伝子プロフィールを逆転させる薬剤誘導性の経路はあるか」との問いを立てた。分析を実施したところ、哺乳類のラパマイシン標的タンパク質(mTOR)の阻害薬であるラパマイシンは、耐性シグネチャよりも感受性シグネチャと正の関係にあることが明らかになった。しかも、耐性シグネチャは、mTOR経路を調節するAkt経路と関連する遺伝子が豊富であった。Armstrongらは、in silico、in vitro およびin vivoで、ラパマイシンがALL細胞にみられるグルココルチコイド耐性を効果的に逆転できることを確認した。さらに、抗アポトーシス遺伝子MCL1 (骨髄性細胞白血病配列1(BCL2-関連))については、ラパマイシン処理によってその発現が抑えられるほか、Akt活動時に発現が増大する遺伝子のひとつであることも明らかになった。ALL耐性細胞のこの経路についてさらに研究を重ねれば、臨床的に有用であることがわかるはずである。

 一方、T Golubらは既に、前立腺癌の新規治療薬を特定する目的で、遺伝子発現スクリーニングを実施し、アンドロゲン受容体(AR)からのシグナル伝達を阻害する低分子を特定している。トリテルペノイドのセラストロールおよびゲデュニンのほか、関連化合物を含むいくつかの分子を特定し、ARシグナル伝達阻害能があることを確認したGolubらは、これらの薬物がどう機能するかを突き止める必要があった。そこで相関マップを用い、類似した遺伝子発現シグネチャを探した。in silicoでは、HSP90の阻害因子である可能性が高いものとしてセラストロールおよびゲデュニンが同定され、続いてin vitro でもこれが確認された。さらに、セラストロールおよびゲデュニンが、ゲルダナマイシンなど、特徴が十分にわかっているほかのHSP90阻害因子のように、 ATPポケットに結合してHSP90を阻害するのではないことを突き止めている。すなわち、セラストロールおよびゲデュニンは、ゲルダナマイシンと相乗作用的に機能してHSP90機能を阻害できるのである。

 両論文は、ヒト腫瘍試料から作成した遺伝子発現プロフィールから価値のある情報を迅速に抽出する際に役立つという点で、相関マップが有用であることを明らかにしている。

doi:10.1038/nrc2021

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