Research Highlights

第一級

Nature Reviews Cancer

2006年4月1日

T細胞性急性リンパ芽球性白血病(T-ALL)患者の50%超には、NOTCH1の異所性活性化がみられる。どの時点でNOTCH1が機能して、T細胞の成熟過程で細胞を形質転換させるのかについては、これまで大いに議論されてきた。Harald von Boehmerらは現在、NOTCH1と協同するシグナル伝達経路をさらに正確に特定している。

T 細胞の成熟過程は複雑である。最初期の段階のひとつは、リンパ球前駆細胞に機能的pre-T細胞受容体(pre-TCR)がまだ発現していないことを特徴とする。マウスを用いた初期の一連の実験では、pre-TCR発現細胞以外からはT-ALLが生じなかったことから、NOTCH1がpre-TCRと協同でT-ALLを生じることがわかった。しかし、別のマウスモデルを用いて得たデータは、NOTCH1がpre-TCR非依存性にT-ALLを誘導することを示していた。

これに取り組むべく、Harald von BoehmerらはNOTCH1の細胞内領域(ICN1)を発現するレトロウイルスベクターを作製し、pre-TCR陰性骨髄細胞に感染させた。この細胞をその後、致死線量を照射した同系マウスに注入した。このマウスは細胞移植から9週間後に、T-ALLにより死亡した。そこで、この過程で機能的pre- TCRに求められる条件を検討するため、機能的pre-TCRを発現させることができない遺伝子再構成活性化遺伝子2 (Rag2)-/-マウスに上記細胞を注入した。このマウスにもT-ALLは発生したが、その動きは緩やかで、このマウスが死亡したのは移植から11週間後であった。抗CD3抗体はpre-TCRシグナル伝達を模倣することができ、Harald von Boehmerらが新たに移植したRag2-/-マウスに抗CD3抗体を注入したところ、このマウスは野生型の対照と同じく9週間後にT-ALLにより死亡した。

さらに実験を重ねたところ、NOTCH1シグナル伝達は正常マウスの未熟な胸腺細胞の増殖に必要であることがわかった。 Harald von Boehmerらは、異所性のNOTCH1活性化が上記細胞の生存性を高め、その増殖を誘導することにより、T-ALLにつながる二次的な遺伝的事象の可能性が高まるのではないかと考えている。

Harald von Boehmerらは、pre-TCRシグナル伝達はT-ALL発生に不可欠ではない。

doi:10.1038/nrc1872

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