Research Highlights

ウイルス形質転換への一歩

Nature Reviews Cancer

2006年4月1日

ヒト癌全体の1/3〜1/4はウイルス性であり、ウイルスが悪性腫瘍を引き起こす機序は多種多様かつ複雑である。Dirk Dittmerらは、トランスジェニック法を用いて、カポジ肉腫関連ヘルペスウイルス(KSHV)がリンパ増殖性疾患の発生をもたらす機序を検討した。

KSHVはなかでも、カポジ肉腫(結合組織の悪性腫瘍)および2種類のリンパ増殖性疾患、すなわち原発性体腔性リンパ腫(PEL、胸膜腔、心膜腔および腹膜腔に罹患することが多い)および多中心性Castleman病(MCD、リンパ節に腫瘍様増殖を生じる)を引き起こす。Dittmerらによる以前の研究では、KSHV関連腫瘍が、B細胞に発現して腫瘍抑制因子p53およびRBと結合し、さらにはグリコーゲン合成酵素キナーゼ3β (GSK3β)と結合するタンパク質、KSHV潜伏感染関連核抗原(LANA)を発現することが明らかにされている。このことからDittmerらは、LANAの発現がKSHVに起因するB細胞腫瘍の発生にどう寄与するかを検討することにした。

Dittmerらは、LANAを病因となるレベルで発現させるため、B細胞特異的かつKSHV関連悪性腫瘍で構成的に活性化しているウイルスKSHV LANAプロモーターであるLANApの制御下で、LANAトランスジェニックマウスを作製した。このトランスジェニックマウスは、PELに認められるのと同レベルのLANA mRNAを発現した。

Dittmerらは、トランスジェニックマウスのB細胞が、抗原によって活性化されたB細胞(過剰増殖性で、局所的に凝集および活性化している)に類似していることを突き止めた。さらに、すべてのマウスに良性リンパ増殖性疾患が認められたほか、トランスジェニックLANA発現自体は、胚中心の完全な成熟を引き起こすには不十分であるが(これには、パラ分泌シグナルおよび抗原による活性化が必要)、一部のトランスジェニックマウスは、加齢に伴い巨大B細胞リンパ腫を生じることが確認された。

このように良性リンパ増殖性疾患表現型はB細胞リンパ腫発生の可能性を高めたが、形質転換には、ほかにどのようなシグナルが必要なのだろうか。これまでの試験では、LANA発現がRas-MAPK経路を通じて細胞活性化の可能性を高めることが明らかにされている。PELおよびMCDについては、ほかのKSHV癌遺伝子が明らかなB細胞リンパ腫に二次シグナルを与えると考えられている。Dittmerらはこの試験の結果を受け、抗原の連続曝露がリンパ腫発生の引き金になりうると示唆している。また、(AIDS患者によくみるような)ほかの病原体の共感染が、二次シグナルになるとも推測している。

Dittmerらは、LANAトランスジェニックマウスが、初のKSHV依存性B細胞リンパ腫形成動物モデルとして、 LANAによるB細胞刺激機序を明らかにするほか、形質転換に必要な二次刺激の特定に役立つことを期待している。考えられる候補としては、B細胞およびT 細胞のリンパ腫を引き起こすことがすでにわかっているKSHVサイクリンD相同体がある。

doi:10.1038/nrc1871

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