Research Highlights

役割転換

Nature Reviews Cancer

2006年4月1日

前立腺癌は必ず、アンドロゲン依存性増殖からアンドロゲン非依存性増殖へと進行し、抗アンドロゲン療法抵抗性の原因となっている。Zhuらは現在、浸潤マクロファージが、選択的アンドロゲン受容体モジュレーター(SARM)をアンドロゲン受容体の拮抗因子から作動因子へ転換させるシグナルを放出することによって、この過程に寄与していることを明らかにしている。

アンドロゲン受容体などの核ホルモン受容体は、通常のホルモンリガンドとも、さまざまなモジュレーター(アンドロゲン受容体の場合はSARM)とも結合する。受容体の立体配座は、リガンドおよびモジュレーターとの相互作用およびプロモーターの立体配座の双方によって決まる。今度は受容体の立体配座がプロモーターにある調節因子のアセンブリを支配するため、転写出力およびホルモン誘導性増殖の有無に影響が及ぶ。SARMの負の作用は核受容体コリプレッサー (NCOR)複合体に依存し、この複合体は、受容体がそのSARM誘導性立体配座にあれば、受容体のN末端と結合する。

Zhuらは、観察により、マクロファージが前立腺サンプルの癌化領域のほぼすべてと関連することを確認した。次にレポーター構造を用い、 SARMのひとつであるビカルタミドが、それを加えた細胞とマクロファージとを共培養した場合に、その拮抗活性を喪失し、代わって作動因子になることを明らかにした。マクロファージが放出するシグナルIL-1βを遮断すると、この作用は失われた。

では、IL-1βはどのようにして、SARMを拮抗因子から作動因子へ転換させるのだろうか。Zhuらは、この作用がマイトジェン活性化タンパク質キナーゼキナーゼキナーゼ1(MEKK1)またはTAB2(いずれも炎症シグナル伝達に関与)がヌルである細胞には起こらないことに注目している。さらに、共免疫沈降法では、TAB2がアンドロゲン受容体のN末端にある保存領域と結合することが明らかになった。Zhuらは、IL-1βが MEKK1を活性化し、これがTAB2によってNCOR複合体に動員されるのではないかとしている。これによって複合体が分解すると、SARMはもはや受容体に対する拮抗作用をもたなくなり、代わって活性化を引き起こす。

今では、アンドロゲン非依存性増殖の機械的原理に対する理解が深まり、新しい治療法をデザインしやすくなっている。この試験を実施するなかで、興味をそそる可能性がひとつ浮かび上がってきた。アンドロゲン受容体N末端モチーフを含むペプチドが、SARMの作用を受けてマクロファージ誘導性スイッチを遮断したというものである。前立腺癌の治療においては、抗アンドロゲン療法の無効化を回避するこのような戦略が有用となる。

doi:10.1038/nrc1874

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