Research Highlights

効果を持たせるための装備

Nature Reviews Cancer

2006年3月1日

癌細胞を化学療法薬で処理すると、遺伝子転写が変化を来たす。Paul Polakisらは、この作用を利用して癌細胞を標的にできるかどうかを検討した。細胞毒素を装備した抗体を用い、癌細胞での発現がI型トポイソメラーゼ阻害剤であるイリノテカンによって誘導される抗原に狙いを定めた。

Polakisらは、イリノテカンまたは対照として生食水を投与したマウスでヒト大腸癌異種移植片を増殖させてその転写物の発現を比較し、発現プロファイリングを用いて、対照よりもイリノテカンで処理した腫瘍で有意にアップレギュレートされている細胞表面タンパク質をコードする転写物を同定した。LY6D遺伝子(E48でも知られる)は、グリコシルホスファチジルイノシトールによって繋がれている短い細胞表面タンパク質をコードし、最も安定した強い誘導性を有することから、抗体の標的になりうるとされていた。処理したマウスの正常腸組織でイリノテカンがLy6dを誘導しなかったのは、きわめて重要である。正常な腸で誘導された遺伝子は、炎症または感染への応答に関与するもののみであった。

では、LY6D抗原を標的にすれば、イリノテカンに対する腫瘍の応答が改善されるのだろうか。Polakisらは、免疫したマウスからLY6Dに対する抗体を獲得した。この抗体は、無装備のままでは細胞傷害活性をまったく示さなかったため、このLY6Dモノクローナル抗体に細胞毒素であるモノメチルオーリスタチンE (MMAE)を抱合させた。抗インターロイキン8を細胞毒素に結合させたものと賦形剤のみの対照を用意し、このいずれかをイリノテカンとともに腫瘍担持マウスに投与したところ、腫瘍増殖が弱まり、3週間後に再び増殖した。これに対して、イリノテカンで治療し、追って抱合型LY6D抗体を投与したマウスでは、8匹中6匹に完全寛解がみられた。抱合型抗体のみの治療には、抗腫瘍活性がまったくなかった。

LY6Dは重層扁平上皮および移行上皮に発現し、これまでは、頭頸部癌の治療標的および診断マーカーとして用いられてきた。こうした正常細胞に対するLY6D抗体の作用は不明であるが、Polakisらは、化学療法によって誘導される細胞表面抗原を標的にすることが、研究を重ねる価値のある方法であることを明らかにしている。

doi:10.1038/nrc1825

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