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侵入経路の対のタンパク質

Nature Reviews Microbiology

2005年2月1日

Nature誌に発表された最近の論文で、プラスチドの新たな生物学的な特性、すなわち、プラスチドの2つのタンパク質が菌類および細菌の共生に役割を有することが明らかにされた。

高等植物の大部分は根においてアーバスキュラー菌根菌と共生する。この共生は樹枝状体の形成を特徴とする。樹枝状体は、植物が菌類からリン酸を得て炭素を供給するための宿主細胞の分岐した構造である。根粒菌(窒素固定細菌)を有する窒素固定根粒はもう1つの共生の特徴で、植物の炭素と細菌の固定した窒素とを交換する。植物は根粒菌により生成される信号分子(Nod因子)を感知し、根毛細胞に微生物が侵入し共生微生物が生息できるよう特殊な根粒器官を形成するために遺伝的プログラムを再構築する。Nod因子は速やかなイオン流入、特に細胞膜を通過するCa2+流入、を誘導する。その後カルシウムスパイキングという核周囲でのCa2+濃度の振動が見られる。

今泉(安楽)らは、細菌および菌類とマメ科植物であるミヤコグサ(Lotus japonicus)との共生関係を研究している。林誠、川崎信二およびMartin Parniskeの研究室との共同研究で、根粒を形成できないミヤコグサ変異体のスクリーニングを行った。CASTORあるいはPOLLUX遺伝子に変異があると、根粒形成あるいはアーバスキュラー菌根菌との共生ができなかった。根毛の枝分かれなどなんらかの形態学的変化は生じるものの、変異植物と根粒菌との相互作用で感染が継続することはなく、細菌でも菌類でも共生は進行しなかった。castorおよびpollux変異体の根の細胞では、Nod因子に応答したカルシウムスパイキングが見られず、これらの変異体では共生の初期の生化学的および発生上の段階が損なわれていた。

ポジショナルクローニングより、CASTORおよびPOLLUX遺伝子はそれぞれ1番および6番染色体に位置することを明らかにした。これらの遺伝子の高い相同性より、隣接配列にシンテニーは見られないが、両遺伝子は遺伝子重複により生じたことが示唆される。CASTORはすべての器官で発現するが、根で発現が上昇している。POLLUXは根粒で優先的に発現する。CASTORおよびPOLLUXタンパク質は、共に葉緑体遷移ペプチドを有すると予測されており、GFP標識によりこれらのタンパク質はプラスチドマーカータンパク質と共存することが認められた。CASTORおよびPOLLUXタンパク質の相同性および単独では機能しないことより、これらの「双子」タンパク質は共生に必要なヘテロ複合体を形成するのであろうと著者らは推測している。

この双子の複合体はどのように機能するのだろう。著者らは、古細菌の多量体のカルシウム通門カリウムチャンネルに類似したCASTORおよびPOLLUXタンパク質の構造上の特徴を明らかにした。対をなす双子チャンネルが、共生の初期段階での微生物と植物の相互作用で細胞膜および根の細胞の核周辺で生じるイオンの流入を調整するのだろう。輸送されるイオンならびにその機構の実験的検証が必要である。

この興味深い報告は、古代の内部共生体が今日の共生生物の植物への侵入をどのように制御してきたかを明らかにしている。この制御機構の解明は今後の楽しみな課題である。

doi:10.1038/fake748

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