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マウスと粘液腫

Nature Reviews Microbiology

2005年1月1日

ウサギの致死性疾患である粘液腫病は、ポックスウイルス科に属する粘液腫ウイルスにより生じる。粘液腫ウイルスはウサギ以外の種の脊椎動物には発病させないが、すべてのポックスウイルスの特徴であるこの厳密な種の制限の分子的機構はわかっていない。今回、Grant MacFaddenらは、粘液腫ウイルスの種の壁は、宿主細胞のシグナリングカスケードである細胞外シグナル制御キナーゼ(Erk)1/2−インターフェロン−STAT1シグナル伝達経路が関与することをNature Immunologyに報告している。

粘液腫病はウサギにのみ生じるものの、粘液腫ウイルスはin vitroではマウス細胞に感染できることから、ポックスウイルスの宿主制限を研究するモデル系となっている。そこで、MacFaddenらは、ウイルスの後期遺伝子プロモーター制御下にβ−ガラクトシダーゼを発現する粘液腫ウイルスを初代培養マウス胚線維芽細胞(pMEF)に感染させた。感染細胞のX-galアッセイより、ウイルスはpMEFへ侵入することができたが、ウイルスと細胞シグナル伝達経路間の相互作用が必要であるウイルスの後期遺伝子発現が行われないため、感染は成立しなかった。

このことから、宿主細胞のシグナリングカスケードが粘液腫ウイルスの複製を制限しているようだ。実際、シグナル伝達分子Erk1/2の阻害剤、U0126存在下でpMEFに粘液腫ウイルスを感染すると、許容性になりウイルスが複製した。活性化されたErk1/2は通常核へ移行し、Elk1をリン酸化する。意外なことに、粘液腫ウイルスの感染したpMEFではElk1はリン酸化を受けておらず、リン酸化されたErk1/2は細胞質にとどまっていた。粘液腫ウイルス感染細胞では、1型インターフェロン経路の重要な分子種であるインターフェロン調節因子3(IRF3)などの細胞質に存在するシグナル伝達分子とErk1/2が相互作用することにより、強力な抗ウイルス効果が生じる、と著者らは推測した。

さまざまな実験から、これが事実であることが示された。pMEFへの粘液腫ウイルス感染に伴い1型インターフェロンmRNA量が上昇したが、Erk1/2を阻害すると大幅に減少した。また、インターフェロン1の下流の仲介物質であるSTAT1のリン酸化も Erk1/2の活性に依存していること、Erk1/2とIRF3との相互作用も明らかになった。すなわち、Erk1/2の阻害によりIRF3はリン酸化されず粘液腫ウイルス感染細胞の細胞質にとどまっていることが判明した。

これらのin vitro解析の結果は、種の壁を越えた感染が以下のin vivoにおける実験でも証明されたことで確実になった。野生型マウスはウサギに特異的なこのウイルスには感染抵抗性であるのに対し、Stat1-/-マウスに粘液腫を脳内接種すると、速やかに感染が成立した。

多くのウイルスはErk1/2経路により複製を促進していることより、これらの研究からウイルス−宿主相互作用の複雑性が明らかになり、異なるウイルスが宿主細胞の同じシグル伝達経路を調節することで感染の成立の成否に影響を及ぼしていることが示された。さらに、Erk1/2シグナル伝達と1型インターフェロン誘導との間に、今までわかっていなかった関連性があることが示されたことは、免疫学者にとって注目に値するだろう。

doi:10.1038/fake747

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