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選んで混ぜて害虫駆除

Nature Reviews Microbiology

2004年8月1日

微生物が生成する天然化学物質が害虫駆除に用いられるが、これらの化合物の多くに修飾を加えると効果が増強される。日本の研究グループが、真菌宿主に細菌の遺伝子を混合し殺虫作用を増強させる方法を見つけた。

PF1022Aは糸状菌Roselliniaの生成する環状デプシペプチドで、作物につく寄生虫に対して駆虫効果を有する。PF1022Aのベンゼン環にアミノ基およびニトロ基を添加すると害虫駆除の活性が上昇するが、この合成には大量の硝酸が必要であるため費用がかかり、危険を伴い、環境上も好ましくない。矢内耕二らはこの方法を検討し、Roselliniaに遺伝子操作を加えてPF1022A生合成酵素の、代わりとなる基質を発現させることにより、アミノ誘導体およびニトロ誘導体を菌体内で生物学的に生成させた。

D-フェニル乳酸は、PF1022A生成における主要酵素、PFSYNの基質の1つであり、Roselliniaのフェニルピルビン酸生合成経路で作られる。PFSYNは類似化合物であるp‐ニトロ‐D-フェニル乳酸およびp‐アミノ‐D-フェニル乳酸も識別し、目的のPF1022Aのニトロおよびアミノ誘導体を生成するが、これらの本来の化合物と異なるPFSYN基質はRoselliniaでは天然に合成されない。しかし、Streptomyces venezuelaep‐アミノ‐フェニルピルビン酸経路では合成される。そこで、S. venezuelaep‐アミノ‐フェニルピルビン酸生合成遺伝子をRoselliniaに導入することにより、より強力なPF1022A関連化合物の生成を可能にするだろうと考えた。

PF1022A関連化合物を生成するために、矢内らは合成経路の最初の段階に必要な酵素をコードするcmu1遺伝子を破壊し、Roselliniaの内在のフェニルピルビン酸合成を阻止した。次にS. venezuelaep‐アミノ‐フェニルピルビン酸生成に必要な遺伝子、papApapBおよびpapCを単離した。これらの遺伝子を有するプラスミドを用いてcmu1‐欠乏Rosellinia株を形質転換し、これら3つの遺伝子を有する形質転換株を選別し、発酵培養液中で増殖した。これらの形質転換株を増殖した培養液中の化合物の質量分析およびNMR分析を行ったところ、望みのPF1022A誘導体、およびその他の関連化合物を首尾よく生成できたことを確認できた。 ところで、この方法により駆虫剤を大規模に生成できるであろうか。今回、矢内らが生成した量は産業として利用するにはあまりに少量すぎる。しかし、人工的に導入された基質を一層有効に用いるよう酵素であるPFSYNを修飾することにより、生成する量を上げることが可能であろう、と矢内らは述べている。これがうまくいけば、細菌と真菌の遺伝子を混合させるこのいわゆる組み合わせ法は実用性の高い環境にやさしい害虫駆除剤生成法となるだろう。

doi:10.1038/fake743

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