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SLAPとCBLは協力してTCRζを減らしている

Nature Reviews Immunology

2006年1月1日

ダブルポジティブ(DP)胸腺細胞で発現されるT細胞受容体(TCR)の量は、少なくとも部分的には、SLAP(SRC-like adaptor protein)が仲介するE3ユビキチンリガーゼCBL(Casitas B-lineage lymphoma: c-CBLとも呼ばれる)の移動・集合によりTCR複合体の取り込みを行う分子経路によって調節されていると考えられている。この経路ではCBLがTCRζ鎖(TCRζ)をユビキチン化し、その結果TCRζがタンパク質分解の標的とされるのだが、最近Nature Immunologyにこの考えを裏付ける結果が報告された。

DP胸腺細胞の細胞表面で発現されるTCRの数は、シングルポジティブ細胞あるいは末梢T細胞に比べるとかなり少ない。これによってDP胸腺細胞は、TCRと異物ペプチド-MHC複合体間の相互作用によって開始されるシグナル伝達の量的ちがいをより感度よく判別できると考えられてきた。このことはDP胸腺細胞が正の選択を受けるか、あるいは負の選択をうける、もしくは無視されて細胞死を起こすかを決定するのに重要らしい。Myersらは以前に行った実験結果から、SLAPとCBLは同じ分子経路中で働いており、DP胸腺細胞によるTCR発現を調節していると考えた。そこで彼らは、SLAPとCBLの両方を欠くマウス、SLAPあるいはCBLのどちらかを欠くマウス、および野生型マウスにそれぞれ由来するDP胸腺細胞について、TCRとCD3の発現を比較してみた。TCRβとCD3εの発現は、Sla-/-Cbl-/-、およびSla-/-Cbl-/-DP胸腺細胞表面の方が、野生型DP胸腺細胞に比べてかなり高くなっていた。そしてTCRβとCD3εの発現増大の程度は、これら3種の変異体マウスを通してほぼ同じであった。同様に、TCRζの分解は、野生型DP胸腺細胞に比べて、Sla-/-Cbl-/-、およびSla-/-Cbl-/-DP胸腺細胞では著しく低下していた。

細胞表面でのCD3εと細胞内でのTCRζの発現は、遺伝子導入によりSLAPとCBLの両方を発現するようにしたジャーカットT細胞では低下していたが、SLAPあるいはCBLのどちらかしか発現しない細胞ではこうした低下は見られなかった。これは、SLAPとCBLが同じ分子経路中にあることを示す上記の遺伝的証拠と一致している。ジャーカットT細胞でのこのCD3εとTCRζの発現低下は、SLAPからミリストイル化を受ける部位を除去すると見られなくなったし、SLAPがSRCホモロジー2(SH2)ドメインあるいはカルボキシル末端を欠く場合にも見られなくなった。また、CBLがRING(really interesting new geneの略)-フィンガードメインを欠いても、発現低下は起こらなくなる。CBLのRINGフィンガードメインは、E3ユビキチンリガーゼ活性を有している。さらに解析を行ったところ、ジャーカットT細胞でSLAPとCBLが両方ともに発現されるとTCRζのユビキチン化が誘導されるが、SLAPあるいはCBLのどちらかだけではユビキチン化が起こらないことがわかった。

ジャーカットT細胞でSLAPとCBLがCD3εの発現低下を引き起こすには、プロテインチロシンキナーゼであるLCKも必要なことがわかったので、Myersらは自分たちの仮説をさらに押し進め、次のように考えるようになった。まずLCKは、細胞表面にある完全なTCR複合体中のTCRζをリン酸化する。さらに、こうした複合体は細胞内に取り込まれてからエンドソーム区画に入り、そこでSLAPのSH2ドメインがリン酸化されたTCRζと結合する。次いで、SLAPはCBLを移動・集合させ、CBLがTCRζをユビキチン化してタンパク質分解の標的とする。このため、完全なTCR複合体はリサイクルされず、その結果細胞表面でのこの複合体の集積が起こらなくなるというのである。

doi:10.1038/fake627

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