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もう1つのHIV抑制因子APOBEC3F

Nature Reviews Immunology

2004年8月1日

ヒトのAPOBEC3Fは、先に見つかったAPOBEC3Gに次ぐ第2番目の抗レトロウイルス性因子であることが、Current Biology誌に発表された2つの研究により明らかになった。抗レトロウイルス性因子は、HIV-1の感染力をin vivoで阻害することができる。APOBEC3Gは、ウイルスcDNAのマイナス鎖中のシトシン(C)を脱アミノ化してウラシル(U)にし、これによってプラス鎖のグアニン(G)をアデニン(A)に替えることが2003年に突き止められていた。GがAになる変異が高濃度で蓄積するとウイルスの感染力はかなりの程度阻害されるので、APOBEC3Gはヒトのレトロウイルスに対する自然免疫的防御基盤の一部であるらしいと考えられていた。

しかし、AIDS患者由来のHIV-1サンプルの塩基配列を解読すると、そこで見つかるGからAへの変異は、全てをAPOBEC3Gだけで説明できないことが明らかになった。APOBEC3Gは、マイナス鎖のCCを基質とする傾向が極めて強く(変異を受ける方のCにアンダーラインをしてある)、この配列はプラス鎖ではGGに相当する。しかし、AIDS患者のサンプルではGGとGAの両方で置換がきわめて起こりやすいことがわかった。ヒトでは、シトシンデアミナーゼ・ファミリーと考えられている酵素はこれ以外に8種類がコードされており、APOBEC3FとAPOBEC3Gの間には著しい相同性があるので、APOBEC3FはAPOBEC3Gと同じような働きをしており、GA変異の方を起こしているのではないかと考えられるようになった。

M Malimらは、APOBEC3GおよびAPOBEC3Fの存在下および非存在下で培養したHIV感染細胞由来のHIV cDNAの塩基配列を解読し、まずAPOBEC3FがGをAに変える変異を起こし、これが感染力低下と相関していることを明らかにした。ついで、シトシン脱アミノ化の起こる局所コンセンサス部位について調べた。APOBEC3Fが標的とする頻度が高いのはマイナス鎖のTCで、これは患者由来のHIVでGA変異が見られることと相関していた。一方、R Harrisらは別の研究で、APOBEC3Fが変異を起こしやすいジヌクレオチドの70%がTCだが、APOBEC3Gでは変異の87%がCCで起こったことを明らかにした。MalimらとHarris らは共に、APOBEC3Fを発現する細胞パターンにヒトT細胞が含まれていることを示した。in vivoで感染する細胞の大部分はT細胞である。つまり、APOBEC3GとAPOBEC3Fは共にHIV感染に対する自然免疫に関わっているが、変異を起こすジヌクレオチド配列の選び方は全く異なっているらしい。Harrisらはさらに、APOBEC3FとAPOBEC3Gによって起こったと思われる感染力低下が相加的であることを明らかにしている。これら2つが独立して機能しているものと考えている。

しかし、これら2つの研究では、ウイルスタンパクであるVifによる阻害に対するAPOBEC3Fの感受性の高さに関する結果が異なっている。VifはAPOBEC3Gを標的としてプロテアソームで分解することにより、HIVをシトシン脱アミノ化から守っている。だから、APOBEC3GとVifの存在下で合成されたHIVは感染力を保持したままになる。Malimらは、VifとAPOBEC3Fの存在下では、HIV塩基配列の90%以上で変異は全く起こっていないか、起こっていても変異は1個だけだったと報告している。また、反応系からVifを除いてやると、変異の起こらない範囲は50%未満に低下した。したがって、APOBEC3FはVifによる阻害に感受性であると考えられる。一方Harrisらは、これとは対照的に、APOBEC3Fの存在下で複製されたウイルスの場合、Vifがあっても感染力は部分的にしか残っていないことを明らかにした。つまり彼らは、APOBEC3FはAPOBEC3GよりもVifに対する感受性が低いと考えている。APOBEC3FがVifが仲介するプロテアソームでの分解を回避しているのかどうか、もしそうだとしたらその仕組みはどんなものなのか、それを解明するにはさらなる実験が必要である。

doi:10.1038/fake613

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